修理はメーカーからユーザー自身で直す時代へ。需要の変化に慌てないために今から備えることは?

修理はメーカーからユーザー自身で直す時代へ。需要の変化に慌てないために今から備えることは?

2022.05.26

鈴木 邦成(すずき くにのり)※掲載記事の内容は監修当時のものです
物流エコノミスト、日本大学教授(在庫・物流管理など担当)。博士(工学)(日本大学)。 早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本卸売学会理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。


パソコンやスマートフォンなどの電子機器をはじめとした複雑な機構の製品が故障した場合、これまではメーカーに修理を依頼するのが当たり前でした。
しかし最近では、「修理する権利」として、故障した製品を消費者が自分で修理するということに注目が集まっています。欧米諸国ではメーカーが修理の方法を公開したり、個人でも修理に必要な部品が調達したりできるような仕組み作りが進んでいるのです。
しかも、世界的な課題である「循環型社会の実現」という面からも「修理する権利」は注目を集めているため、同様の課題を抱える日本においても広がる可能性があります。ただし、消費者が自分で修理するようになれば、それにあわせて物流も変わることになります。修理部品などの特殊な在庫管理や梱包、発送などにも対応していく必要が出てきます。
そこで今回は、修理に関わる物流について、どのような点に注意して、どのように準備すべきか、ということを説明してみたいと思います。

欧米では「修理はメーカーで」から「ユーザー自身で直す」がスタンダードへ 

 

「スマートフォンが故障してしまったけれども、修理となると交換部品もない。新しいものと買い替えるしかないかな」といった経験がある方は多いのではないでしょうか。
スマートフォンに限らず、多くの製品についていえることでしょうが、「修理や部品交換はメーカーに頼むもので、個人では部品も手に入らないし、中身が複雑で自分では修理できない」「スマートフォンなどはメーカーが修理するもの」というのがこれまでの常識でした。「認定パートナー制度」などを設けて、自社以外が修理を行うこともありますが、その場合も純正部品を決められたプロセスで修理してきました。
これは日本でも基本的には同じ方針で、たとえばスマートフォンなどの携帯端末については携帯電話のキャリアか、「登録修理業者制度」で総務大臣の登録を受けた修理会社などが行っています。
ちなみに個人が携帯電話などを分解すると電波法令で定められている技術水準に適していることを証明できなくなり、電波法違反にもなります。

ところがそんな常識がここにきて変わろうとしています。欧米諸国では、消費者が自ら修理を行う「修理する権利」が広がってきているのです。メーカーが修理の方法を公開したり、個人でも修理に必要な部品が調達したりできるような仕組み作りが進んでいます。
消費者が自分で自由に修理するという「修理の権利」は、EU(欧州連合)で生まれ、2021年にはアメリカでも認められました。これまで認められていなかったのは法律上の規制からでしたが、メーカー側も安全性や製造責任などの面から難色を示してきました。
しかし、「修理に出すと時間がかかるし、料金も高く、買い替えたほうが結局トクなような気がする」と考えていた消費者が「安く直せるし自分で直そう」と思うようになれば、結果として製品寿命も延びることになります。そしてそれは「もったいない」という意識を大切にするSDGs(持続可能な開発目標)や環境保全の考え方にも通じることになります。循環型社会の構築と推進という面からも「修理する権利」は徐々に広がりを見せているため、世界的な流れとなり、近い将来、日本にも広がるということを意味しています。

たとえば、米国の大手メーカーではスマートフォンやタブレット、パソコンなどの修理部品を個人にも提供するという取り組みを始めています。
また、消費者サイドからは、「リペアカフェ」という動きが見られます。これは、店舗やイベント等で修理の専門家と消費者が協力しながら、修理キットやノウハウを共有しつつ、自分の手で直していくという運動で、欧米諸国で広がっています。

そして、この消費者自らが修理をするという流れが物流にも少なからぬ影響を及ぼすことになりそうなのです。

「自分で直せる」製品と環境が整うと、在庫管理や梱包、求められるスピードまで変わる

それでは実際に日本に修理する権利が定着したらどのような影響があるのでしょうか。
物流面について考えると、これまでの消費者とメーカー間の単純な修理の流れが、かなり変わってくる可能性があります。
多くの人にとって身近なスマートフォンやパソコン、家電製品などの、これまでの修理のプロセスを見てみましょう。まず消費者が故障した製品を販売店(修理受付窓口)などを通して、メーカーに修理を依頼します。メーカーは自社の修理工場などで故障個所を修理したり、部品を交換したりします。そして修理が完了した製品は消費者に戻ってくることになります。(図1)
 

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これに対して、修理を消費者が自ら行う場合、メーカーの動きは次のように変わる可能性があります。

(1)    消費者が自分で修理する場合
メーカーは、消費者が修理できる環境を整える必要がでてきます。
・修理マニュアル
 消費者が安全に修理できるように、紙媒体のマニュアルを販売店などで配布、あるいは有料で提供するか、ホームページからダウンロードできるようにしておく必要があります。
・修理部品
修理に使う部品についてはメーカーが提供する新品の純正部品に加え、リサイクル・リユース部品などの需要が高まるでしょう。純正部品を消費者に直接販売するルートに加え、リサイクル・リユース部品を回収するための物流環境も必要とされます。

(2)修理会社に依頼する場合
 メーカーは、修理を専門とする会社から情報・部品提供に加え、アドバイスを求められる可能性があります。
修理や交換部品のスペックなどが公開されている場合、純正部品にこだわらない消費者は、メーカーよりも安価で引き受ける修理会社に依頼して修理してもらったり、前述したリペアカフェを開催してそこで専門業者や詳しいボランティアなどに修理をお願いしたりすることも考えられます。(図2)
 
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いずれの場合でも修理について物流の視点からこれまでとは異なる対応が求められる可能性があります。
以下、順にポイントを考えてみましょう。

ポイント1:在庫の販売先や管理が変わる
消費者自身や修理業者などが修理部品を求めるようになるため、これまでよりも部品の販売先が増えることが予想されます。加えて、修理部品特有の特徴や傾向を把握した在庫管理を行う必要もでてくるでしょう。なぜなら、完成品の需要予測とは異なり、修理部品(サービスパーツ)の需要予測は特殊な要因に左右されるからです。
例えば、右利きの人が多い日本では、左右対称にスイッチなどが付いている製品の「右側用がよく壊れる」という傾向が強く出てくることもあります。似たような部品でも使用頻度が高く故障しやすい部品と、非常に故障しにくい部品の差が激しいといったケースもあるでしょう。
また、製品発売直後から生産完了までの各段階においても、修理部品の需要は変動します。

発売直後:初期不良品への対応
新製品の発売直後は初期不良などが発生し、部品交換の必要性が高まる可能性があります。継続的に不具合が発生するケースが多いので関連部品を多めに持つとよいでしょう。

発売からしばらく経過:間欠品への対応
一定期間をおいて需要が出てくるようなものを間欠品といいます。それらは、最低限の在庫を保有して、必要に応じて補充することで対応します。たとえば、スマートフォンのディスプレイなど、壊れることが少なく、その時期も予測できないようなパーツの場合、在庫を多めに持つことは避けたほうが無難です。

生産完了後:保証期間の対応
生産完了品は、保証期間中は必要な部品数を確保しておかなければなりません。例えば、冷蔵庫などの家電製品で10年くらいの在庫保有が求められます。ただし、これらは純正部品の話で、消費者自身が修理できるようになれば、リユース・リサイクル部品の需要や供給が多くなる可能性があります。 

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ポイント2:消費者へ最適な製品梱包の周知が必要

消費者が故障した製品を自分で梱包し、修理業者に送るケースが増えてくることも予想されます。その場合、どのような梱包で修理依頼品を送るべきかを明らかにしておく必要があります。たとえば、消費者が紙袋などの簡易的な梱包で送ってしまい、「故障していた製品のさらに別の箇所が壊れてしまう」といった事態が発生することも考えられるからです。

したがって、壊れやすい精密機器や家電製品などであれば、本体・付属品などがきちんと入る丈夫な段ボール箱に入れて、クッション材などで箱の隙間を埋めてもらうようにする必要があります。「修理時の梱包のポイント」をまとめた資料を製品に同封したり、WEBサイトで公開したりすることで消費者に周知しましょう。

また、修理業者が修理を終えた製品を消費者へ送り返す場合も同様で、せっかく修理した製品が返送の際に破損したり故障したりしないように、輸送時の梱包については段ボール箱などにしっかり入れて保護材でのガードが必要です。

ポイント3:大量のロットを迅速に対応しなければならない
リペア物流と呼ばれる修理関連の物流は相当な数量の緊急出荷や緊急配送を迅速に行う必要があるということをまずは認識しておく必要があります。例えば、電気製品やスマートフォンなどが故障するときには「突然動かなくなる」ということがよくあります。しかもこれらは「すぐに使えるようにならないと困る」ものです。
より専門的な物流の立場から考えると、これは「修理部品の需要は緊急出荷、緊急配送など、スピードが求められる」ということを意味します。しかも、消費者自身が修理できるようになれば、相当な数量の需要が出てくる可能性があります。つまり、大量ロットを迅速に捌く必要があるということです。
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販売後の製品の把握や販売データの蓄積と共有で修理需要にスムーズに対応

このように消費者が自ら修理できるようになれば、修理部品を取り巻く環境が大きく変化します。通常の物流の常識とは異なるケースも少なくないので、先入観を持たずに柔軟な発想、対応ができるようにするとよいでしょう。そのため、これまで以上に、①どのような製品のどのような部品が故障しやすいのか(「左右で対のパーツの右側だけ壊れやすい」など)、②緊急出荷の数量が多くなる部品はどの部品なのか(スマートフォンの落下による画面割れのように「故障・破損が突発的で生活に支障が出る製品のパーツ」など)、といったデータを蓄積し、③どれくらいのロットが一定期間に必要になるのかを修理業者やパーツのサプライヤーなどと共有しておくと、修理需要への対応もスムーズになるでしょう。
また、緊急出荷や緊急配送などの対応にあたっては、現在委託している物流会社とコミュニケーションを取り、いつでも相談できるようにしておくことが大切です。

来るべき回収変革期に備えて早めの準備が重要。今から準備できることは?

海外ではこうした流れが大きくなりつつあることを踏まえて、スマートフォンなどの大手メーカーは、消費者が自分で修理しやすいプログラムを用意し始めています。
最後に在庫管理や発送・配送など、物流面で対応しなくてはならないことをまとめました。日本でも同様の流れが大きくなってくる可能性に備え、準備すべきことを確認しておきましょう。

◆在庫管理
・修理件数の多い部品を認識(多頻度修理品の把握)
・発売から一定期間経過した製品の修理・交換が発生する部品の把握
・左右で対となるパーツの片側のみ修理需要があるなど、特殊な部品特性の理解
・交換部品のスムーズな補充

◆梱包
・破損しやすい部品や製品の梱包における注意点の周知
・形状が特殊な部品などの梱包方法のマニュアル化

◆発送・配送
・緊急出荷への対応
・大量ロットの出荷、発送への対応
・誤出荷対策ができる体制の構築
・修理部品や修理済み品のスムーズな伝票発行

◆決済
・修理代金の決済方法の準備

発見POINT

  • 部品ごとの特性に応じた在庫管理体制の構築

    「修理する権利」が浸透すれば、修理部品への需要はこれまで以上に増加するでしょう。ただし、すべての部品の在庫を大量に抱えるのはリスクがあり、そもそも現実的ではありません。修理部品には、「左右で対になっている部品でも右側だけがよく故障する」といった独特な特徴や、製品発売後の経過時間に応じた需要の変化があります。修理部品の供給先などと連携しながら、どこで、どれだけ必要になるか把握しておくことが大切です。また、消費者向けの修理マニュアルを提供するなど、「誰でも修理できる環境づくり」も必要です。

  • メーカー以外の修理を前提とした準備を整える

    「修理する権利」で求められるのは、修理業者や消費者が修理できるあらゆる環境です。これには、修理部品に加え「修理方法」も含まれています。自社以外の人でもわかるようなマニュアルの整備が必要になるでしょう。また、修理部品についても、リサイクル・リユース部品の需要増加も予測されます。これまで廃棄されていた製品を回収し、使えるパーツを修理部品として流通させるなど、中古部品の回収や販売網の構築も視野にいれると良いでしょう。

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