回収業務が発生したら何からどうする?メーカーの販売店や購入者への対処法とは?

回収業務が発生したら何からどうする?メーカーの販売店や購入者への対処法とは?

2022.03.07

監修:鈴木 邦成(すずき くにのり)
物流エコノミスト、日本大学教授(在庫・物流管理など担当)。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本卸売学会理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアールの社外監査役も務める。専門は、物流・ロジスティクス工学。
※掲載記事の内容は監修当時のものです。


 

安全性に問題のある欠陥が見つかった製品は、法令の定めまたはメーカーの自主判断によってリコール・回収が行われます。取次などの法人や販売店を通して製品を消費者へ届けているメーカーにはどのような対応が求められるでしょうか?
リコール・回収時のメーカーと販売店の連携について解説します。


リコール・回収の情報を消費者へ確実に届ける

リコール・回収の第一歩であり、もっとも大切なことは、リコール・回収情報を消費者に確実に届けること。メーカーのもとに顧客情報があるなら、まずはメーカー自ら消費者へリコール・回収の実施を通知しましょう。通知方法としては、ダイレクトメールのほか、電話やFAX、eメール、直接訪問など、製品や流通の特性に応じて適切なものを選びます
また、不特定多数の消費者にも広く情報を届けるため、自社のWEBサイトや関連省庁のリコール・回収に関するWEBサイトへの情報掲載も欠かせません。

食品衛生申請等システム(厚生労働省)
リコールについて(経済産業省)

しかし、それでも製品を購入したすべての購入者にリコール・回収の情報が知れ渡らないこともあるため、販売店との連携が不可欠です。例えば、販売店の顧客リストなどから消費者に連絡をするといったことが考えられます。過去には、販売店がチェーン店の場合に、ポイントカードの情報を活用して購入者を特定し、リコール・回収情報を発信した例もあります。
ただし、販売店の顧客リストを消費者の許可なくメーカーが利用すると、個人情報保護法に抵触する恐れがあるので十分な注意が必要です。あらかじめ、「リコールなどの際は顧客情報をメーカーに知らせることがある」という同意事項を用意し、製品を販売する際に販売店を通して消費者に署名を求めるのが望ましいです。

また、販売店との連携として、店頭にPOPなどを掲示してもらうという選択肢もあります。ただし、販売店としては特定の製品が意図せず回収され、しかも他の製品の売上にも影響を及ぼすリスクがあるため、POPの掲示は有料となることがあります
当該製品の売上規模や流通規模が小さい場合、リコール・回収の告知は自社WEBサイトや販売店でのPOP掲示などで十分な場合もあります。しかし、それはあくまで購入した消費者が限定される場合や、リコール・回収の原因となった不具合の危険性が低い場合だと考えましょう。たとえ中小企業であっても、流通規模や危険性によっては、全国紙の新聞広告の利用も検討してください。

いずれの場合も、リコール・回収の告知を行う場合は、明瞭かつ簡潔に実施内容を載せるべきです。冗長なお詫び文はかえって読み飛ばされやすいため、必要な情報を整理してわかりやすく掲載しましょう。

優先して伝えるべき情報は下記です。

・回収しているという事実
「下記製品を回収しています」等、リコール・回収に関する掲示であることがひと目で分かるようにしましょう

・回収製品
製品の見た目がわかる写真、回収製品の名称、該当するシリアルナンバー等。
何が回収されているのかがすぐに分かるように、製品の写真は重要です。購入者はもちろん、自分で購入していない使用者(プレゼント等)にも伝わるようにしましょう

・回収方法
メーカーや工場などの返送先、最寄りの回収拠点(販売店)等。

・製品の仕様を続けた場合の危険性
「製品の使用を続けた場合、〇〇といった重大事故に繋がる恐れがあります」等。
ただ不具合があるだけだと認識されてしまうと、返送を後回しにされたり、忘れ去られてしまったりする可能性があります。考えられる危険性を包み隠さず、掲示しましょう。


法人や販売店からの回収で被害拡大を防ぐ

リコール・回収情報の消費者への通知について、販売店に連携を求めると同時に、販売店の在庫回収にも取り掛かります。
    
リコール・回収は下図のような流れで行われます。
「店舗→卸売→メーカー」の流れで回収する単純な「逆流通式」だと、他の製品と回収品が店舗や倉庫などで混在し、誤返送・誤回収を行うリスクがあります。
そこで、回収センター(回収拠点、店舗などに併設のケースもあり)を設けて消費者から製品を受け付ける形式をとることがあります。回収センターで部品交換、修理できるものはその場で対応し、できないものは、回収センターから修理、交換工場へ送ります。

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ただし、在庫拠点に製品がとどまっているうちや、小売流通量がまだ少ない段階にかかった場合は、販売店から卸売への逆流でかなりの量が回収できるため回収センターを設けないこともあります。

販売店からの回収において注意すべき点は下記です。

・「リコール情報を把握した段階で消費者の手に渡らないようにする」
リコール対象になっている製品を販売してしまうことで消費者の信用を失いクレームに繋がりますし、なにより新たな被害を生んでしまう恐れがあります。

・リコール対象製品のシリアルナンバーを販売店と正確に共有し、返送数や処理数を記録しておく
「リコール後に対象製品を販売してしまう」というミスを防ぐとともに、リコール状況のモニタリングにも役立ちます。

・リコール対象商品の品番、商品名、返送先住所・宛先などの共有
販売店による誤返送を防ぐため、リコール・回収はただでさえイレギュラーな対応なので、混乱を招く可能性は少しでも無くすようにしましょう。


消費者からの回収窓口を販売店が担う場合も

販売店との連携は市場在庫の回収以外に、リコール・回収対応の窓口を担ってもらう場合があります

代表的なのは自動車です。ユーザーが販売店まで運転してリコール対象部品などがある自動車を持ち込み、販売店でそのまま修理、あるいは販売店から修理工場に移送して修理します。そして後日、ユーザーが販売店に自動車を取りに戻るという流れです。
こうした販売店が窓口になるパターンは、家電や食品、アパレルなどにも見られます。家電の場合、カスタマー相談センターと販売店の双方が窓口になる場合が多いようです。また、食品については店舗で回収案内が掲示などされて、そのまま店舗で着払い返送などの手続きが行えたり、店舗で返品の受け付けを行ったりするケースがあります。そしてアパレルの場合、消費者が対象商品を店舗に持ち込み、該当商品と引き換えに現金で払い戻しをします。またオンラインで購入したリコール対象商品も店頭での返品回収を受け付けているケースもあります。

消費者目線で見れば、製品を梱包してメーカーに直接送り返すよりも、最寄りの販売店に持ち込むほうが手間がかからないと考えることもあるでしょう。そうした意味では、メーカーにとって販売店は、重要な回収拠点だといえます。

ただし、販売店を回収拠点とする場合、以下のような条件を満たす必要があります。

・販売店に、回収した製品を一時保管するスペースを確保できるか
・一連の回収手続き(返品・返金などの関連書類の記入、メーカーとの連絡など)を担当する販売店スタッフが確保できるか
これらの条件が満たせない販売店には、リコール・回収情報の周知をお願いし、店頭POPの掲示などを依頼すると良いでしょう。

販売店に回収拠点を担ってもらう場合、消費者への対応や段取りを決めておくべきです。例えば、リコールの理由や交換・返金の流れ、期間などを消費者へ丁寧に説明できるように、販売店との詳細な情報共有が不可欠です。また、販売店では製品の状態(傷や破損など)を消費者立ち会いのもとでチェックし、顧客情報の入力や、確認書への署名も必要になります。
また、「販売店に持ち込まれた商品がリコール対象商品かどうか確認し、シリアルナンバーを記録する」ことも重要です。回収品に印をつけるなど、回収品であることを明示しておき、他の商品と混ざらないように念を押しておきましょうまた、リコールは突発的かつ迅速な対応が求められ、しかもイレギュラーな業務のため、トラブルが起こることも少なくありません。どのような点に注意すべきでしょうか。

回収状況のモニタリングで各工程の問題を見極める

リコールにおいては、きちんと回収が行われているか、どれくらいの割合で回収されているのかといった進捗状況のチェックが重要になります。
回収すべき製品のうちどれくらいが回収されているのかという「回収率の把握」や、いつごろ回収作業が完了するのかという「回収完了見込み時期の予測」に加え、きちんと回収できないようであれば「回収方法を再検討」する必要もあります。

モニタリングの結果、回収率が悪いようであれば、以下のような点が問題となっている可能性があるでしょう。

①    リコール情報を最終消費者が把握していない。リコール情報の伝達が完全に行われていない(最も多いパターン)。
②    回収の手続きが複雑・面倒で最終消費者が着手していない。
③    回収側のインフラの都合で回収業務がうまくいっていない(回収人員が確保できない、回収の段取りが決まっていないなど)。
④    回収自体は順調に進んでいるがその進捗情報が対策本部などと共有されていない(リコール状況のモニタリングが不十分)。
⑤    リコールに修理、交換などが伴う場合には修理や交換に時間がかかったり人員不足などで作業が中断、延期されたりするためにリコール工程全体がなかなか完了しない。

消費者が回収情報を把握しているのであれば、一般に「回収の手続きや段取りが面倒で顧客が動かない」「回収作業に手間と時間がかかる」といったことで、時間のない顧客がリコール手続きを後回しにしている可能性があります。状況を見極めながら、各工程の問題を取り除くようにしましょう。


リコール・回収でよくある消費者とのトラブルとその対処法

リコール・回収は消費者にとって不測の事態です。メーカーや回収拠点となる販売店が、消費者とトラブルになることも少なくありません。
よくあるトラブルの例とその対策・対処法を紹介します。

【トラブル事例1】
リコール対象商品を修理・部品交換などのために預かったが、予想以上に時間がかかり、「いつまでにでき上がるのか」とクレームが入った。

対処法
リコール・回収が決まった時点で、先々までの見通しをきちんと立て、詳細な段取りを組みます。しかし、場合によっては回収が予定通りに行われず、見通しが崩れることも。定期的に回収状況をモニタリングし、行き詰まっている工程(消費者へ情報が伝わっていない、回収はできているが修理に時間がかかっている、など)を把握・改善しましょう。状況次第で、見通しを立て直す必要もあります。 すでに予想以上に時間がかかってクレームが入った場合は、丁寧にお詫びしたうえで、可能ならば代替商品の貸し出しなどを行います。修理工場などに確認していつまでに修理・交換などが完了するのかを、再度確認して、顧客に報告しましょう。

【トラブル事例2】
回収品の処分を外部業者に委託したところ、処分は行われたようだが、どのような段取りでどの商品を処分したのかがわからなくなってしまった。

対処法
回収品のシリアルナンバーの記録、回収品への印の打刻などを行い、受付管理を適切に行います。回収品の処分は適切な廃棄物処理事業者に依頼するだけでなく、立ち合い、確実に処分されていることを確認するように改めましょう。

【トラブル事例3】
リコール対象商品と類似した商品(リコール対象商品ではない)を、誤って工場に返送してしまった。

対処法
リコール対象商品の受け取り・回収に際しては、写真との照合や品番・シリアルナンバーの確認を複数人で行ったうえで回収伝票を作成して返送するように改めましょう。

【トラブル事例4】
返金処理に時間がかかり、「なかなか返金されない」というクレームが数多く入ってしまった。

対処法
リコール対象商品の受け取り・回収に際しては、返金にかかる目安の期間をきちんと説明します。 
しかし、銀行振り込みや現金書留では手間もコストも時間もかかるうえ、お金を送るということがはばかられるケースも。少額の商品の場合はクオカードで返金扱いすれば、取扱いも比較的容易です。

準備は万全ですか?リコール・回収のまとめ

リコール・回収対応をスムーズに処理するためのポイントをまとめました。
日頃の備え、実際にリコール・回収となった場合、そして販売店との連携について、いつでも確認できるようにしておきましょう。


リコール・回収の事前準備

いざというときに慌てないために
●リコール対応時のフローをすぐに参照できるようにする
●リコール・自主回収の概要、返品、返金の手順と段取りについての研修を行う
●自社の製品の顧客にリコール・回収を通知する際の最適な媒体を把握しておく
●消費者に販売する際、「リコール・回収時にメーカーが顧客情報を利用する」ことの同意事項を用意する

実際にリコール・回収が発生したら

リコール・回収情報を通知するために
●参照できる顧客情報を用意する(または、利用できる顧客情報の有無を把握している)
●顧客への直接の通知を行う
●自社や関係省庁のWEBサイトにリコール・回収情報を掲示する
●法人・販売店にも通知し、消費者に販売しないように管理する
●POPの掲示など、販売店でのリコール・回収情報の通知について了解を得る  

リコール・回収の見通しやモニタリングのために
●回収すべき数量を把握し、どのくらいの期間が必要か見通しをたてる
●回収した数量を正確に把握する
●リコール状況をモニタリングする  

消費者との対応のために
●リコールの理由について、消費者にわかりやすく説明できるようにする
●リコール対象商品の品番・商品名・返送先住所・宛先などを正確に把握する
●リコール対象商品の返送数・処理数・各シリアルナンバーなどを正確に把握する
●修理・交換が必要な場合、それにかかる期間を把握し、消費者に説明できるようにする

販売店を回収拠点にする場合

回収拠点となる販売店を選ぶために
●回収拠点とする店舗には一時的な保管スペースを確保できるか確認する
●回収拠点とする店舗は回収業務にあたるスタッフが確保できるか確認する  

回収拠点となる販売店で適切な対応ができるように
●持ち込まれた商品がリコール対象商品かどうかを確認し、シリアルナンバーを記録するよう依頼する
●持ち込まれた商品の梱包や返送に関わる適切な方法を共有する
●回収品には印の打刻などを行い、回収品であることを明示するよう依頼する  

消費者とのトラブルを避けるために
●持ち込まれた商品にキズ、破損などがあるかを持ち込んだ最終消費者の立ち合いのもとチェックするよう依頼する
●顧客情報などの入力作業を行い、連絡先を記録するよう依頼する
●修理・交換の確認書に最終消費者から署名などをもらうよう依頼する
●修理・交換で商品を預かる場合はそれにかかる期間を販売店と共有する
●返金・交換などの手続きについて消費者と一緒に文書などを見ながら確認するよう依頼する
●その場で返金する場合は確認書に最終消費者から署名などをしてもらうよう依頼する

 

リコール対応は「製品の欠陥による事故の拡大を防ぐ」ことが何よりも重要。スムーズに、ミスなく対応できるように、十分に準備しておきましょう。

発見POINT

  • 回収状況をリアルタイムに把握する

    リコール・回収において、予定日までに目標数が回収できない要因はさまざま。告知方法や回収方法などを状況によって変えていく必要があります。そのためにも、回収状況をリアルタイムで把握しておける環境を準備しておきましょう。

  • 販売店との情報共有と連携

    リコール・回収がかかったときは、販売店へ対象製品や回収方法などの情報共有をスピーディに周知することが重要です。また、回収状況をモニタリングするためにも、販売店からフィードバックもしてもらえるように、事前に環境を整えておくと良いでしょう。

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