
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念に基づいた独自のブランド価値を提案し、多くのファンに支持されているマザーハウス。修理・ケアはそんなファンとの末永いお付き合いのために大切にしている業務だといいます。お客さまが気軽に修理・ケアを申し込んでいただけるための工夫、修理ケアを通してお客さまとの絆を深めるためのポイントをマーケティング・広報の責任者、小田靖之さんに伺いました。
お客さまとの永続的なお付き合いのために
――マザーハウスでは、バッグなどの修理やケア・回収にも力を入れています。そうしたサービスの目的やねらいを教えてください。
バッグなどのレザー製品は、使っていく中でどうしてもスレやホツレ、キズなどが生じてしまいます。お客さまから「何とかしてほしい」と要望も多く寄せられたため、それらをケアし、汚れを洗浄するサービスを始めました。そこには、お客さまとは商品を買っていただいた後もアフターケア等を通してコミュニケーションを図って、永続的なおつき合いをしていきたいという考えもあります。修理やケアはその手段のひとつであり、大切な機会なのです。
――「ソーシャルビンテージ」というネーミングにも、この事業にかける思いの強さを感じます。
リメイク商品の「RINNE」の発売を機に、修理・ケアのサービスを合わせて「ソーシャルビンテージ」と名づけました。お客さまが大切に使用されているバッグをケアや修理をして、より長く使っていただく。そして役目を終えたバッグは回収し、リメイク商品に蘇らせることで、新たな社会の循環を生み出すという考え方です。お客さまに気軽にお申し込みいただけるよう、 Webサイトをリニューアルしてサービス内容の説明や手順をわかりやすく整理しています。また、バッグを大切に使っていただくためのセルフケアの動画も掲載していますが、お客さまと一緒にこの「ソーシャルビンテージ」の取り組みを大切に育てていきたいと考えています。
業務のスピードアップでお客さまを待たせない

――修理の相談や依頼の内容は多岐にわたると思いますが、標準的な対応の手順は、どのようになっているのでしょうか。
修理の相談や申し込みは電話やメール、外部のシステムを使ったオンラインチャットで受け付けています。もちろん店頭に直接持ち込まれることも少なくありません。店頭でキズなどの状態を把握できるものについては、見積のマニュアルに基づいて、その場でおおよその費用をお伝えしています。
修理を始めたころは、修理の担当者がすべての見積に対応していたので、見積を出すまでに2週間近くかかりましたが、経験を積む中でマニュアル化を進めたことで、ご相談のうち約半数を店頭で対応できようになり、お客さまをお待たせすることも少なくなりました。
仮見積に納得して修理をご依頼いただいたお客さまには、商品を修理の専門部署に送ってもらいます。送料はお客さま負担ですが、引き取りサービスも用意しています。専門部署で届いた商品をチェックして、改めて本見積と修理にかかる時間を連絡し、お客さまの質問などにも答えています。修理するかどうかを最終的に判断していただき、修理すると決まったら作業開始です。
作業は外部のパートナー企業が担当し、作業を終えたら、お品物を店頭に送り、店舗からお客様にお渡しの準備が整った旨をご連絡しています。またご自宅への直送にも対応しています。修理費用は代引きの他、クレジットカード決済、銀行振り込みにも対応しています。
見積から回収・修理・お渡しまで、マニュアル化やスタッフの教育を進め、倉庫や外部パートナーとの連携や物流も含めてスピードアップを図ることで、お客さまが頼みやすいサービスを目指しています。

――ケアには「ビフォアケア」と「エイジングケア」を用意しているそうですね。
ビフォアケアとは、その名の通りレザーの商品を使う前に施すものです。レザーは生き物なので、本来は毎日の手入れが望ましいのですが、誰もができるわけではありません。そこで、商品を使う前に、専用オイルの「プロテクションクリーム」でレザーの内側をコーティングして、きれいな状態を長く保つようにします。お客さまには購入時に説明していて、ご希望の場合はその場で作業します。所用時間は長くても30〜45分程度。ECの場合は倉庫のスタッフがケアを担当します。プロテクションクリームを塗った後でも、定期的なメンテナンスをお客様自身で行うことを推奨しているので、ケア用品の販売を店頭やECにて行っています。
一方、エイジングケアは、レザーの商品を使っていく中で自然に生じる汚れなどをきれいにして、できるだけ元に戻すものです。修理と違って、ケアが必要な部分やケアの方法がある程度決まっていて、必要な作業も商品の洗浄、専用オイルによる再コーティングが主なものになっているので、申し込みに専用フォームを用意しています。見積、商品の受け渡しなどのその他の手順は、基本的には修理と変わりません。
お客さまをお待たせすることなく気軽にお申し込みいただけるよう、マニュアル整備やスタッフの教育に力を入れ、安心してお任せいただける取り組みは継続的に行っています。

修理・ケアを通して得られる「気づき」の活かし方
――修理やケアは顧客とのコミュニケーションに必要とのことですが、そのコミュニケーションは、マザーハウスに何をもたらしているのでしょうか。
最も大きいのは「情報」だと思います。当然のことながら、新しい商品を販売するまでには品質テストを行い、課題の洗い出しと対処を繰り返します。しかし、それでもわからないことがあります。たとえば角が擦れやすいとか、金具がゆるむとか、そういった課題は、実際に商品を使ってもらって初めてわかること。つまり。修理やケアの依頼は、そうした課題に気づく大切な情報なのです。
ですから依頼を受けた際には、どのような使い方をしているのか、使用頻度はどの程度か、いつから症状が現われたのかといったことを細かく聞き取り、写真とともにデータとして残しています。もちろん、デザインへのフィードバックが必要とわかった場合などは、すぐに工場などの関係部署に連絡して対応します。マザーハウスの商品は大量生産ではないので、こうした改良を次のロットから反映できますし、こまめで迅速な対応が可能です。
購入履歴や売り上げなどの基幹的な顧客管理データとは別に、こうしたデータを用意することによって、商品の品質向上や、店舗の適切な運営などが実現すると考えています。修理やケアは必ずしも収益の上がる事業とはいえませんが、それ以上に重要な意味があるのです。

――修理やケアは、マザーハウスの事業全体において、どのような位置づけになるのでしょうか。
お客さまには多種多様なニーズがあり、修理やケアもそのひとつです。新しいデザインのバッグに魅力を感じて買い換えるお客さまがいる一方で、使い込んで良さがでる革の風合いや手に馴染じむ感触に愛着を感じ、一つのバッグを長く使いたいというお客さまもいらっしゃいます。修理やケアは、お客様の「不安」や「お困りごと」に応えることであり、それがブランドとの関係を作るうえで重要だと思っております。つまり、修理やケア、リバースロジスティクスへの取り組みも含めて、マザーハウスというブランドはできているのです。
マザーハウスは、アジアの途上国に何ができるのかという代表の山口絵理子の思いから始まった会社で、バッグや洋服をつくるためにつくった会社ではありません。その創業の思いを大切にしてものづくりを行い、独自のサービスを提供するとともに、お客さまとの関係を築いていくことが、これからも重要と考えています。
