食品ECを運営するうえで大切な品質と安全性の管理。一方で、ECの運営規模が大きくなれば、業務効率化やスピード対応などの課題も生じてきます。ときには、これらのバランスの取り方が難しいこともあるでしょう。
そこで、馬刺しを中心に自社ECサイトとモールを合わせて20店舗以上運営している利他フーズの取り組みを通して、ECにおける食品の品質・安全管理と効率化、温度管理のポイントについて迫ります。
「注文を受けてから2営業日での出荷」にすることで鮮度と安全性を両立
自社ECサイトやモールなど、複数のEC を運営するうえで重要になるのが業務効率化やスピード対応です。それでもなお、利他フーズは、馬刺しの加工はあえて手間のかかる職人による手さばきにこだわっています。過去記事:「食品の返品を起こさない」工夫とは?衛生管理の浸透や業務改善における利他フーズの取り組み
これについて、利他フーズ代表取締役社長の猪本真也さんが「機械よりも職人の技術のほうが、無駄なく均一に馬肉を加工できる」と話すように、お客さまや市場から求められるままに機械化や自動化を取り入れることが必ずしも正解とは限りません。無理な効率化は品質低下のリスクに加え、安全性を脅かす恐れもあります。
また品質や安全性とのバランスでもう一つ課題となるのが、スピード対応です。昨今は、ECで注文してから手元に届くまでのスピードが重視されますが、利他フーズでは注文を受けてから出荷するまでに最低でも2営業日を確保しています。
というのも、馬刺しは食品衛生上の観点から、-20℃・48時間以上の冷凍が厚労省によって義務付けられているからです。
注文後すぐに出荷するためには、あらかじめ切り分けた馬刺しを冷凍してストックしておくことが基本となります。しかし、長期間の冷凍は馬刺しの美味しさに関わる鮮度を損なってしまうので、在庫として抱えるのは欠品リスクを回避するための最低限の量にしています。「すぐに届く=新鮮」であると思いがちですが、むしろもっとも鮮度を保った状態で届けるために時間をかける必要があるのです。
「すぐに届くのが当たり前の世の中ですが、そればかりが価値だと一様には言えません。商品のもっとも大切な価値は何かしっかりと考え、バランスを取ることが重要です。弊社の場合、手元に届くスピードよりも安全性と鮮度を第一に考えています。そういった理由をきちんとECサイト上でも明文化しておけば、たとえ時間がかかっても消費者は納得してくれます。むしろ、納得してくれた消費者にとっては、新鮮な馬刺しが届くという期待感につながります」(猪本さん)
温度管理が必要な工程での効率化が、品質・安全の担保につながる
安全性を確実に担保しながら、手間や時間をかけて馬刺しの鮮度・美味しさという価値を最大化している利他フーズ。その価値を損なうことなく届けるためには、温度管理の工夫も重要です。利他フーズでポイントとしているのは次の通りです。
・工場から冷凍倉庫へ運ぶ際は、一箱あたりの個数を統一
冷凍保管が必要な食品にとって、温度変化は最小に抑えたいもの。しかし、工場で加工した馬刺しを冷凍倉庫に保管する際、検品作業に時間がかかると温度変化が生じてしまいます。利他フーズでは、検品の時間を最小限に抑えるために、工場から冷凍倉庫に運ぶ箱に入れる商品個数を統一しているのだそうです。
「単純に、箱に入っている商品数がランダムだと数えにくいですよね。一日を通して見ると、結構な時間と手間をかけていることになるんです。でも、たとえば一箱に10個と決めてしまえば、工場でも冷凍倉庫でも作業がスムーズになります。空間を犠牲にしても、数えやすさに重点を置いたほうが作業効率の観点や、品質を保つためにも利点があると判断しました」(猪本さん)
・倉庫のレイアウトを最適化して検品の時間を短縮し、温度変化を最低限に
利他フーズでは、商品ごとに保管する棚をあらかじめ決めて、冷凍倉庫内の整理整頓に努めています。これにより、商品を探したり、出し入れしたりするときの迷いをなくし、温度変化が生じる時間をできるだけ短縮。また、発送時には冷凍倉庫から持ち出してすぐに梱包できるよう、梱包作業スペースを冷凍倉庫のすぐ近くに設けた冷蔵温度帯のエリアに設置しています。
あえて梱包の常識を疑い、自社商品に適した資材を使ってリスクを軽減
冷凍食品の梱包といえば、発泡スチロールと保冷剤を使用するのが一般的です。しかし、利他フーズでは、「検証を重ねた結果、弊社の馬刺しの場合は、ダンボールが最適だという結論に落ち着きました」と猪本さん。発泡スチロールで梱包した場合、積み込み時に外気温にさらされても内部の温度を低く保つことができます。一方で、長時間外に放置されて内部まで温度が上昇するといった、イレギュラーな事態が発生した場合、冷凍庫に入れてもすぐに内部まで冷えず、そのあいだは商品の鮮度がどんどん落ちていってしまいます。
「積み込みの際に外気にさらされる場合は短時間で済むため温度変化は微々たるものなので、発泡スチロールで梱包する必要性はないと判断しました。むしろ、イレギュラーが発生したときに冷凍庫や冷凍トラックですぐに内部まで冷やすことができるダンボールが最適だと考えたんです。商品の種類や特性、輸送時間などによって最適な梱包方法は異なるので、一般的な方法以外にも検証してみる価値はあると思っています」(猪本さん)
EC事業の継続や拡大を図るのであれば、「自社商品の価値は何か」ということを今一度考えたうえで、価値を損なうリスクを一つ一つ排除する必要があります。特に食品の場合は温度管理が重要なものが多いので、材料の入荷から製造・検品・梱包・配送の各工程で温度変化を最小限に抑え、美味しさをそのままに安全にお客さまの元へお届けできるようにしましょう。