「食品の返品を起こさない」工夫とは?衛生管理の浸透や業務改善における利他フーズの取り組み

「食品の返品を起こさない」工夫とは?衛生管理の浸透や業務改善における利他フーズの取り組み

2022.08.19

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株式会社利他フーズ 代表取締役社長 猪本真也さん

「ITと食で『豊かな一日』をつくる」というビジョンのもと、「熊本馬刺しドットコム」を運営。手さばきによる新鮮な馬刺しや九州の特産品を中心にEC専門で個人および飲食店向けに販売している。2016年からは、馬肉を利用したペットフードの通信販売事業「健康いぬ生活」も運営。




 

熊本県産の新鮮な馬刺しを「熊本馬刺しドットコム」で通信販売している利他フーズ。ECという特性上、購入者の受取拒否など、一定数の返品は発生しているそうですが、基本的に返品の数は最小限に抑えておきたいもの。特に食品においては、安全性を理由とした返品は特に避けたい問題です。
食の安全性を守る工夫について、利他フーズの取り組みを通して考えてみましょう。


食品の返品を防ぐためには、安全管理の徹底が基本かつ最重要


 
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利他フーズが運営している「熊本馬刺しドットコム」は複数のECモールに出店しており、その数は20以上にも及びます。
食品であるため、基本的にはお客様都合での返品は受け付けていないのですが、ECという特性上、長期不在による受取拒否など、一定数の返品は発生してしまうのだそう。

「返品は全体の0.5%くらいです。ただ、弊社は運営しているECの店舗数が多いので、0.5%とはいってもそれなりの数になります」

そう語るのは、利他フーズ代表取締役社長の猪本真也さんです。
利他フーズの馬刺しは冷凍状態でお客様の手元に届きます。それが、受取拒否でイレギュラーな保管が発生したり、返品前のお客様のもとでの保管状況が悪かったりした場合など、一度解凍されてしまうと、衛生上の観点から再販は難しくなります

「最近でこそ、返品を前提としたECサービスは増えていますが、そもそも返品はないに越したことはありません。特に食品を扱っている立場としては、返品率はいっそう減らしていきたい課題です。そのため、販売側のミスで返品を発生させるようなことはできるだけ無くしていきたいと考えています」(猪本さん)

返品理由となる販売側のミスというと、商品の間違いや配送途中の温度管理などが挙げられますが、食品においては特に、安全性に関わるミスは絶対に避けたい項目です。
利他フーズでは、返品を発生させないための安全管理にかなり注力しているといいます。

ポイントとなるのは下記の通りです。
・商品は手作業で一つひとつ加工する
・衛生管理のマニュアル化と社内周知
・商品の移動を把握
・管理できる商品数に絞る

これら一つひとつのポイントを解説していきます。



食品衛生を守るポイント1 手作業で一つひとつ加工して、品質のムラと汚染拡大を防ぐ


 

利他フーズの馬刺しは、美味しさへのこだわりと食品ロス削減の観点から、機械ではなく職人の手さばきによって加工されています。

「馬肉は物によってサイズや形にばらつきがあります。機械では、そうしたばらつきを加味しないで一様に加工してしまうので、商品の質にムラが出たり、切れ端が発生したりすることが多いんです。美味しく、ムダなくということを考えると、職人の経験に頼った方がメリットが大きいですね」(猪本さん)


 
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その際、気をつけているポイントは、「一つの商品の加工を全て終えるまで、他の商品の加工に手を出さない」ということ。つまり、職人が一つひとつ丁寧に加工することを、きちんとルール化しているのだそうです。

「生鮮食品なので当たり前の部分ではあるのですが、加工の一部だけを担当して流れ作業的に処理すると、作業の質にムラがでて安全性にも影響してしまいます。また、流れ作業的に扱った馬肉・馬刺しの中に一つでも衛生的な問題があった場合、同時に作業していた他の馬肉・馬刺しも汚染されてしまいます。生鮮食品の安全性を担保するためには、一つひとつに集中して丁寧に加工することが大切です」(猪本さん)


食品衛生を守るポイント2 ルールの明文化と確実な周知で、安全管理を徹底

 

職人が一つひとつ丁寧に加工することをルール化しているように、衛生管理のルールは全て明文化しています。

食品衛生は事業の継続はもとより、消費者の安全に関わる部分なので、『言った・言わない』の曖昧な状態を避けるために口頭での通達で済ませることは絶対にしないようにしているんです」(猪本さん)

2021年6月にHACCPが完全義務化になったように、食品衛生法は度々改正が行われています。当然こうした変更も、利他フーズ社内の衛生管理マニュアルに取り込みますが、更新した場合には社内チャットやイントラでスタッフ全員に通達を行なっているそうです。その際ポイントとなるのは、「□確認しました」といったチェック機能。ただ通達を送るだけでなく、各々のスタッフがルール改正を認知しているかどうか把握できるようにしています。


 
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「マニュアル作りや浸透に関してまだまだ模索中の部分もありますが、そうした仕組みづくりには積極的に取り組んでいる」という猪本さん。
毎週火曜日、午前中の9〜12時は全社員のスケジュールを空けておき、マニュアル精査や仕組みづくり、業務効率化などの検討に充ててもらうようにしているといいます。

「その名も、『もくもく会』です。日々、いろんな作業に追われていると、業務改善や効率化ってどうしても後回しにしてしまいます。でも、会社をよりよく成長させていくためには、そうした検討は不可欠です。しっかりと時間を取っておいて、もくもくと業務改善を考える機会をつくっておくようにしています」(猪本さん)

このもくもく会では、過去に「品質基準の明確化」というアイデアが出て、現在採用しているのだそう。馬肉の品質の曖昧な部分をきっちりと区別し、ECサイトにも掲載することで、「思っていたものと違う」というクレーム・返品を防止しています。



食品衛生を守るポイント3  ものの移動を把握するために、ECでも商品をバーコード管理


 
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ECは店頭販売と違って、必ずしも商品にバーコードをつける必要はありません。しかし、利他フーズでは全ての商品をバーコード管理することを決めています。在庫管理や移動の把握に役立てているのです。

 

「少し手間にはなるものの、商品の在庫管理や移動の把握にはバーコードでの管理がかなり有効です。例えば、万が一、衛生上の問題が発生した場合も、商品の動きを把握できていればすぐに対策を取ることができます。もちろん保管や賞味期限の順番管理など、普段の業務効率化にも寄与しますね」(猪本さん)


食品衛生を守るポイント4 衛生管理の複雑化を避けるために、意図的に販売商品の種類を減らす


 

ECにおいて、品揃えの豊富さは重要な要素です。そのため、あれもこれもと商品を増やしてしまいたくなりますが、種類が増えるほど管理の手間は増えていきます。これは衛生管理上も問題になることで、商品ごとに微妙にルールが違った場合、商品の種類が増えるたびに工程やマニュアルが複雑化してしまいます。

複雑化するほど、人為的ミスが入り込む余地が生まれてしまいます。そのため、弊社では意図的にいくつかの商品を定期的に廃盤、終盤にしているんです。安全は最優先で、バランスを見ながら調整していくようにしています」(猪本さん)

優先的に廃盤にする商品は、長期間動きがないもの。普段の業務では、売れている商品にばかり目がいってしまうものですが、意識的に売れていない商品を洗い出す機会を設けると良いでしょう。

利他フーズが廃盤商品を検討する際のポイント
・長期間動きがないもの
・加工方法が複雑で手間がかかるもの
・加工時のロスが大きいもの
・ピックアップに手間がかかる詰め合わせ商品

こうしたポイントは、販売スタッフだけでは把握が難しい場合があります。生産や倉庫のスタッフと連携し、全社的に商品整理の検討をするようにしましょう。


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できるだけ減らしていきたい食品の返品率。販売側のミスや都合による返品を減らすためには、徹底した商品管理のルールとその周知が重要です。特に安全面のミスに関しては、リコール・自主回収につながる恐れもある基本的かつ最重要な項目なので、定期的に見直す機会が必要です。ただし、闇雲にルールを追加するのではなく、商品数や業務工程の整理と並行して実施することで、無理なく継続できるようにすることが大切です。




発見POINT

  • 安全・品質管理のマニュアル化とチェック機能を使った周知の徹底で、販売側のミスによる返品を防ぐ

    返品を防ぐには販売側のミスを減らすのが先決。基本的かつ重要な安全・品質管理に関してはどんなに些細なことでも、ルールを必ず明文化しマニュアルに組み込みましょう。口頭で伝えるだけでは、後で参照することができないだけでなく、「言った・言わない」の責任問題にも発展しかねません。また、マニュアルを更新する場合は、「□見ました」といったチェック欄をつけて通知するなど、各スタッフが認知したことを把握しておくことも大切です。

  • 定期的に商品ラインアップを見直して生産工程をシンプルにすることで、返品の原因となるミス削減を無理なく継続する

    ECサイトを長く続けていると、取扱商品数がどんどん膨れ上がっていきます。豊富な品揃えはメリットではありますが、管理が複雑化し、ミスが生まれる余地となって返品につながる可能性があります。特に、食品においては、安全性を損なうとリコール・自主回収につながる恐れもあります。無理なく継続して安全や品質を守るために、長く滞留している商品や、生産・加工工程で作業効率が悪い商品を洗い出し、廃盤にすることも検討してみましょう。

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