オイシックス・ラ・大地が考える、フードロスを生み出す要因と対策とは
フードロスとは、「本来なら食べられるのに、捨てられてしまう食品」のこと。その量は、日本では年間522万トン、1人当たりだと1年で約41kg(参考:農林水産省HP/令和2年度)にもなるとされています。これは1人が「毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てていること」とほぼ同じ量です。こうした現状の中、「フードロス削減アクション」を掲げて、「作る・売る・食べる」の食のサプライチェーンの中でのフードロスの課題解決に取り組んでいるのが、オイシックス・ラ・大地株式会社です。生産者から消費者までをつなげるサプライチェーン事業を展開する同社にとって、フードロスの問題点はすなわち事業の課題でもあったと執行役員の東海林さんは語ります。
また、近年避けては通れない問題として、気候変動や自然災害もあります。突発的な災害の発生も増えていて、農作物への影響がフードロスの要因にもなっています。
さらに、消費者側の問題で言えば、「思ったより多く作りすぎてしまった」「食材を購入したものの余らせてしまった」などの理由がフードロスに繋がっていると東海林さんは指摘します。
「ついついご家庭でおかずを作りすぎてしまい、食べきれずに破棄になってしまうケースは珍しくないですよね。日常にありがちなことですが、実はフードロスに繋がる大きな要因になります」(東海林さん)
食のサプライチェーンの中で見えてきたこれらの課題に対して、オイシックス・ラ・大地は下記の取り組みを打ち出していきました。
●ふぞろいや形が変形した食材の発生
→初期の頃より「ふぞろい品の積極利用」を実施。見た目が悪くても、味や形の面白さなどの価値を提供したり、カット野菜に活用するなど、工夫をして販売しました。
●消費者が分量を多く作りすぎてしまう、食材を余らせてしまう
→家庭での食品破棄も最小限になるように、「使い切り食材セット」としてレシピと必要量の食材がセットになっているミールキット「Kit Oisix(キットオイシックス)」を開発。
●突発的な自然災害における食材の被害
→生産者と普段から密に連絡を取り合い、困ったときはいつでも「オイシックス・ラ・大地 が手を差し伸べられる関係性」を保持。とくに運営するOisixでは、 ECサイトという特性を最大限に活用することで、乗り越えることが可能になりました。
これらの取り組みの成果もあり、「食品破棄率」では通常の一般小売店が5~10%(参考:平成29年(2017年)「スーパーマーケット年次統計調査報告書」)のところ、オイシックス・ラ・大地は0.2~0.3%を維持。一般小売店と比べれば、「ほぼ廃棄食品がゼロ」という状況を達成しています。
食の流通を通して日本の食の未来に貢献する。美味しくて安全な食を消費者に届けるというミッションの実現に取り組み、価値提供を行なってきたオイシックス・ラ・大地。次に取り組む課題として注目したのは、畑や加工現場では『ゴミ』として扱われる、野菜などの大量に出る非可食部(破棄食材)の部分でした。
加工の合間に捨てられていた大根の皮など、食材の非可食部への視点が新商品開発の鍵に。
「これらは例え栄養があったとしても、加工する手間も暇もかけられないため、当たり前のように捨てられてしまう部位でした。この非可食部を上手く使うことはできないか、と着想。そして2021年春に生まれたのが、『Upcycle by Oisix(アップサイクルバイオイシックス)』なんです」(東海林さん)
工夫すれば美味しく食べられる、もったいない破棄食材。「どのように生かし、どうやって美味しく楽しく販売していくか」を工夫することが大切、と東海林さんは語ります。
フードロス削減の鍵を握るアップサイクル商品の進化
実際に、Upcycle by Oisixとはどんな商品なのでしょうか。「Upcycle by Oisixは、地球と身体に優しい、フードロス削減ブランドです。畑や加工現場から出た廃棄食材を活用し、新しい食の楽しみ方を提案します。現在(2022年7月末)までに19品のオリジナル商品を販売しました。具体的には『ブロッコリーの茎』や『パインの芯』チップス、えごま油を絞ったあとの搾りかすで作ったおせんべい『ひとくちサクサク焼き』などがあります」(東海林さん)
生産者から消費者までのサプライチェーンを構築してきた同社にとって、廃棄されていた非可食部を集めるのは難しいことではありません。そこに同社が培ってきた食品の加工ノウハウを合わせることで、新しい商品としたのです。
「アップサイクルの食品開発を進める中で、最初に『チップス』を選んだのは、廃棄食材との関係が見た目でもわかりやすく、老若男女問わず食べやすいからです。『野菜のこの部分ってどんな味なの?』『捨てられる食材だけど、なんだか美味しそう!』と、気軽に手に取ってもらえるような商品を開発しています」(東海林さん)
このUpcycle by Oisixの反響は大きく、お客さまからも多くの声が寄せられました。
「『お菓子にすることで、アップサイクルの取り組みが身近に感じられた』『野菜嫌いな子どもも食べられた』など、わたしたちにとってもうれしい声が寄せられました。アップサイクルという形で当社の食品流通のノウハウや食品業界の未来への取り組みが評価されたと感じています。こうした商品のレビューは、Webサイトを通じて Oisix の社員はもちろん、生産者の方々にも共有されます。生産と消費の現場をつなぐコミュニケーションは、生産者との信頼関係の構築はもちろん、新しい商品開発にもつながる大きな要素になっています」(東海林さん)
Upcycle by Oisixのプロジェクトがスタートし、この1年で削減できた「フードロス削減量の累計」は46.2トン(2022年7月末現在)。効果は数字上でも目に見えて表れてきています。では、生産者側の声はどうだったのでしょうか。
「最初、生産者に『この廃棄食材を製品化するので、いただけますか』と持ち掛けたところ、『え、これをどうするの?』『一体、何をするの?』と疑問の声が多かったです。しかし、いざ製品化してみると、『こういうことだったの、早くやっておけばよかった』と満足されている方ばかり。生産者としては、破棄食材が多い事実は世間に言いづらいことだったかもしれません。破棄食材の量が減るのはメリットですし、特別なことをする必要もないので、アップサイクルを通じて気軽にフードロスに取り組みはじめた生産者の方も多くいらっしゃいました。お客さまも、例えば『ブロッコリーの茎っておいしく食べられるのだ』と、新しい価値を感じることできます。両者とも価値観の変化が進んでいると思います」(東海林さん)
「以前からフードロス削減の取り組み推進とビジネスの両立は難しいとされています。しかし今は、お客さまの興味も高まってきているため、購入される方も増えています」(東海林さん)
現時点では、 Upcycle by Oisixの原料となる廃棄食材は、オイシックス・ラ・大地が運営する宅配サービスブランドの プライベートブランド商品の製造委託先や原料仕入先、約700の提携工場から調達。他にも、これからフードロス解決に取り組んでいきたいと考えているさまざまな企業からの仕入れも行っているといいます。
「今後もオリジナルのアップサイクル商品開発を進めます。そして2024年度中には、年間約500トンのフードロス削減を目指していきます」(東海林さん)
最先端のバイオ炭野菜で環境保護と美味しさを両立、グリーンシフト施策を進めていく
オイシックス・ラ・大地は、脱炭素社会(地球温暖化の原因でもある温室効果ガスの排出量ゼロの社会)実現のために2020年11月に「グリーンシフト施策」を制定した、と東海林さんはいいます。
同社が掲げる「グリーンシフト施策」の主な項目としては、
1、農業生産でのグリーン化の推進
2、配送車のグリーンエネルギー実証実験の開始
3、商品パッケージのさらなるグリーン化
4、フードロス削減の取り組み強化
5、フードロスを価値に変える
というものです。
「そもそも当社の野菜は、『環境に負荷をかけない栽培方法』を生産者にお願いし、供給してもらっています。しかし、それだけでは地球環境保護には足りない。さらなる農地のグリーン化が重要だと考えます。そこで、『二酸化炭素を減らすだけでなく吸収する』という効果を期待し、取り組みをスタート。発売してまだ間もないのですが、生産者からは『バイオ炭を導入したい』『導入したいけど、やり方が分からないので教えてほしい』などの前向きな声が寄せられています」(東海林さん)
また、「商品パッケージのさらなるグリーン化」では、2020年から、ミールキットKit Oisix(キットオイシックス)の外袋を「バイオマスプラスチック素材」に切り替えています。外袋を構成する袋やレシピポケット、インク、接着剤のすべてにバイオマスプラスチック素材を使用。
「この取り組みで、年間で石油由来プラスチック使用量を約3トン、二酸化炭素排出量を約13トン削減できています。2022年6月からは外袋の厚みを薄くするなどの検討も開始。
また、高さの変わる段ボールを導入して緩衝材を1/3削減したり、PB商品を中心としてラベルレスにしたり。2023年3月末までに、現在より22%のプラスチック削減を目標にしています」(東海林さん)
これからも理念である「食に関する環境課題に向き合い、ビジネスの手法で解決し続ける」ことを続け、食品業界全体を引っ張っていってくれることでしょう。