創業200年超の和田酒造に学ぶデジタル×アナログ併用の高パフォーマンス在庫管理術

創業200年超の和田酒造に学ぶデジタル×アナログ併用の高パフォーマンス在庫管理術

2022.04.18

和田酒造
1797年(寛政9年)に山形県河北町にて創業した造り酒屋。地元の酒米を原料に地域密着の酒造りを続け、「全国新酒鑑評会」「東北清酒鑑評会」といった日本の権威ある新酒鑑評会では最高賞受賞の栄誉にも輝いている。現在は9代目社長兼杜氏の和田茂樹さんと、バックオフィス業務等のサポートを中心に行う奥様の弥寿子さんが経営。主要銘柄に「あら玉」「月山丸」などがある。
https://aratama-wada.com/


山形県のほぼ中央に位置する河北町という人口約1.8万人の小さな町の小さな造り酒屋、和田酒造。“地元産の酒米と酒造用水をつかって、地元の蔵人が製造する”という地元づくしの酒造りによって生み出される日本酒は、国内外のコンペティションで何度も最高賞を受賞するなど高い評価を受けています。家族を除いた従業員は季節労働の蔵人を入れても8名。製造量も決して多くはない地方の小さな造り酒屋は、どのような取り組みで業務課題を改善して、ビジネスの成長、成功につなげているのでしょうか。その裏側に迫ります。

貴重な原料を安定的に調達するための方法とは? 

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和田酒造の創業は江戸中期にあたる1797年(寛政9年)。それ以降、河北町で地域に密着しながら酒造りを行っています。原料である酒米は、地元農家との契約栽培という形で調達。冬の酒造期には、積雪の影響などで農作業を行うことが難しくなった地元農家の人たちが季節労働の蔵人となって製造が進められていき、瓶詰めされて商品となったお酒は約8割が地元で消費されています。そんな地元づくしの酒造りが成立しているのは、「地元の方々に支えられていることが大きい」と9代目社長の和田茂樹さんは言います。

「原料の調達もそうですが、皆さんと距離が近いので、直接『今年の新酒は〇〇だった』と感想をいただけることもあります。そういったことが、酒造りのモチベーションや品質向上に大きな影響を与えてくれています」(茂樹さん)

顔見知りの米農家から原料を調達することのメリットには、生産者の人柄やその環境をはじめ、品質、その年の収穫量などを把握できた状態で原料を仕入れられるため、ムダなくスムーズに製造工程に移れることがあると茂樹さんは語ります。そして、和田酒造にとって最も大きいメリットは、主要銘柄の「あら玉」にも使用されている「改良信交」という生産が非常に難しいお米を安定的に調達できていることです。 

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契約先の農家との付き合いは、25年以上にもなると言いますが、お米の収穫量は、その年の気象条件などによって変動するもの。ましてや生産が難しい改良信交を、どのように長期間、安定的に調達しているのでしょうか。

「契約先の農家さんとは、気象条件が悪くて収穫量が少なかったとしても、すべてうちで保証して買い取るという契約を結んでいます。収穫量が多かった場合も同様です。そのような形でコストデメリットを保証している点も長くお付き合いさせていただけている理由かもしれませんね」(弥寿子さん)

また、地元住民とのつながりは、お米の調達以外でも「酒蔵同士の勉強会や情報交換会」という形で酒造りに大きな影響を与えています。勉強会では、酒造りに関する相談や新しい技術、同シーズンに収穫される原料の状態など、さまざまな情報が共有されており、それまで各々が独自の手法で行っていた酒造りが大きく変化し、品質レベルがグンと上がったと言います。

製造量のコントロールや品質担保につながる在庫管理術

和田酒造では、消費者にベストな状態でお酒を届けるため、そして自社の業務を効率化させて酒造りにより専念できる環境をつくるために、物流プロセスの中でも特に「在庫管理」に力を入れています。

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品質を保つための在庫管理が重要になるのは、日本酒が製造後の温度管理によって風味が大きく変わるため。和田酒造では、製造後の品質劣化を防ぐための在庫管理として、お酒の種類によって貯蔵する倉庫や冷蔵庫の温度を変える、回転のよい商品は取り出しやすい場所にある冷蔵庫、そうでない商品は奥の冷蔵庫に入れるといった方法を徹底しています。

「私たちにとって重要なのは、自分たちが思っているベストなタイミングでお客さまにお酒を飲んでいただくことです。お酒の種類に合わせて適正な貯蔵温度で管理して、常温に戻してお客さまに届いたときに、ベストな状態になるように管理しています。配送時に冷やさなければベストな状態にならないものは、クール便などで対応しています」(弥寿子さん)

また、冷蔵庫や倉庫に貯蔵できる量には限りがあるため、製造量を調整することで在庫を最適化している点もポイントの一つ。それらの製造・在庫のコントロールは「販売管理システム」を軸に行われていると言います。

「使用している販売管理システムは、受注から出荷、請求、入金という販売業務を管理できるものなのですが、そこから過去数年分の売上や商品別の売上を数値で割り出すことができるので、それを元に今年の売れ筋を予測して製造量を調整しているんです」(茂樹さん)

イレギュラー対応のミスをなくすためのデジタルとアナログを併用した在庫管理

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販売管理システムによる在庫管理は、出荷業務の効率化にもつながっています。
近年日本酒は、消費者ニーズの変化によって小容量化しており、それに伴い多頻度小口化が進んでいますが、「販売管理システムで需要予測ができているおかげで出荷業務の負荷は高まっていない」と弥寿子さんは語ります。

「一升瓶1本分と300ml瓶6本分は実質同じ容量なので、製造量は同じでも当然管理する商品数は増えています。しかし、販売管理システムで確度の高い需要予測を立てて、それをベースに製造を行っているので、どれくらい製造して、どれくらいの保管スペースやリソースが必要になるのかが事前にわかるので、小容量化で製造や出荷時に大きな影響が出ることはありませんね。また多頻度小口化で大変になる、登録や出荷業務も情報をデジタルで管理できているので、記入ミスや数の数え間違え、誤配送といったミスは、ほとんど起きていません。量は増えていますが、ミスをフォローする時間や増員対応をすることがなくなったので、販売管理システムを使用していないときよりも効率的に作業できていると思います」(弥寿子さん)

また、瓶詰めやラベル貼りといった販売管理システムで効率化できない部分は、まとめて瓶詰めを行う、糊付けタイプのラベルからシールタイプに変えるといったアナログな方法で効率化を図っていると言います。これについて茂樹さんは、「デジタルで対応できないところは、アナログで対応することが重要で、デジタルとアナログを併用している」と語ります。

そんなデジタル・アナログが融合した効率化術は、出荷・配送業務でも活かされています。
河北町では香典返しに日本酒を用意する風習があり、和田酒造でも葬儀用のお酒を出荷・配送することは少なくありません。しかしそれらは、不定期かつ突発的な対応が求められると同時に、納品後に開栓されなかったものが返品されてくるという出入りが激しく管理が大変な業務で、正確に在庫や出荷を把握するのは簡単なことではありません。このようなイレギュラーかつ煩雑な業務において、デジタルとアナログの使い分けは非常に効果的だと茂樹さんは語ります。

「お酒の出入りが激しいということもあり、デジタルだけ、アナログだけの管理だと、どうしても抜け漏れが出てしまいます。それを避けるために私たちは、販売管理システム(=デジタル)とホワイトボード(=アナログ)の両方で在庫を記録・管理して、最終的に付け合わせ作業をして間違いがないか確認しています。チェックする人も複数にして間違いがないようにしているので、大きなミスが起こることがないんです」(茂樹さん)

ホワイトボードの活用(アナログ管理)は、次のように行っています。 

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■和田酒造のホワイトボードを活用したアナログ在庫管理
1.受注後、ホワイトボードへ「日付・受注商品、数量、届け先」を記入する(販売管理システムへの登録と同時)
2.ホワイトボードを見て従業員が配送用のお酒を準備する
3.配達担当が準備されたお酒を発注元に届ける
4.ホワイトボードの在庫本数を変更する
5.夕方に在庫を数え、ホワイトボードの内容と在庫に相違がないかチェック
6.デジタルのデータと付き合せし、間違いがないか再度確認 

ホワイトボードを使用しているのには、デジタルとの二重チェックという目的と同時に、パソコンを常にチェックしているわけではない従業員たちに対して素早く、スムーズに情報共有できるようにする狙いもあります。そのため、ホワイトボードは瓶詰めや箱詰めが行われる従業員の目につきやすい場所に置かれているなど、効率化へのちょっとした気遣いも光っています。

和田酒造のデジタル×アナログの在庫管理術を汎用的なスキームに落とすと、次のような形にまとめることができます。

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手順やその内容はいたってシンプル。ホワイトボードに記載する項目は、出荷・配送担当者をはじめとした、すべての従業員が一目でわかるシンプルな内容でまとめるとわかりやすく、管理のしやすいものになるはずです。また、この方法は管理システムへの登録やホワイトボードへの記入・確認が徹底されて初めて機能する方法でもあるので、まずはこの方法を習慣化させることから始めると良いかもしれません。

効率化と言われると、どうしてもデジタル中心で考えがちですが、デジタルで対応できないもの、デジタルだけでは不安なものもあるはず。そんなときに、デジタルとアナログを併用した管理というのは、とても有効的な手段と言えます。和田酒造の在庫管理術を参考に業務の効率化とミスの削減を目指してみてはいかがでしょうか。

発見POINT

  • 細かな温度管理が必要な商品は、管理方法の使い分けと製造量のコントロールで対応

    取り扱う商品の品質が、貯蔵時の温度管理によって左右されてしまうものである場合、まずは、倉庫や冷蔵庫の温度を変えたり、出し入れするときのことを考えて回転の良い商品を取り出すやすい場所に保管したりといった方法で、商品の鮮度を保てるようにしてみましょう。また、倉庫や冷蔵庫のスペースに限りがある場合は、販売管理システムで、同時期の商品別売上を割り出し、製造量をコントロールして在庫を最適化するというテクニックがあることも覚えておくと良いでしょう。

  • デジタルによる効率化×アナログ運用でミスのない高品質なフローが実現

    在庫管理の効率化や品質向上のためには、まずデジタルツールを導入して、在庫の見える化を行うことからスタート。販売管理システムであれば、受注から出荷、請求、入金という販売業務の一括管理が実現し、少ないリソース・作業時間で大量のデータを正確に処理できるほか、過去数年分の売上や商品別の売上を数値で割り出すことで、精緻な需給予測につなげることもできます。また、アナログ運用と組み合わせることで、デジタルでは対応が遅くなってしまうケースへのケアや二重チェックなども実現。よりスピーディーで正確な業務フローを構築することができます。

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