唯一無二の糸とニットで世界を魅了。成功の秘訣は物流の進化とコスト改善意識にあり!?

唯一無二の糸とニットで世界を魅了。成功の秘訣は物流の進化とコスト改善意識にあり!?

2022.05.26

佐藤繊維
1932年(昭和7年)に山形県寒河江市で創業した紡績・ニットメーカー。糸づくりから製品の仕上げに至るすべての工程において「日本のものづくり」を大切にしながら、自由な発想でオリジナリティ豊かな製品を世界に向けて発信している。ニット製品のプロダクトでは多数の自社ブランドを発表している。 佐藤繊維株式会社

佐藤正樹さん
東京のアパレル会社を経て92年に佐藤繊維へ入社し、2005年に4代目の社長に就任。高品質とオリジナリティを武器に糸の開発やニット製品のブランド化などを積極的に行い、世界から注目を集める企業へ成長させる。羊のような金髪ヘアがトレードマーク。


2009年、バラク・オバマ米大統領の就任式でミシェル夫人のファッションが世界中の話題を集めたのと同時に、ある日本の企業に注目が集まりました。ミシェル夫人が着用していた黄色いカーディガンに使われていたモヘア糸をつくった佐藤繊維です。
佐藤繊維は、山形県寒河江市の紡績・ニットメーカー。高品質でオリジナリティにあふれる糸やニット製品は、世界の一流ブランドから高い評価を受けています。
地方都市に拠点を構える企業が、なぜ世界的な評価を獲得できたのか。その軌跡と、世界を相手に戦い続けるために実践している取り組みをご紹介していきます。

ターニングポイントは「物流の進化」。海外輸送で重要視すべきポイントは?

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世界的な一流ブランドへの糸の供給など、ワールドワイドなビジネスを展開している佐藤繊維。その海外進出や成功までの道のりは、決して簡単なものではありませんでした。

佐藤社長が家業を継いだのは1992年。低コストの海外企業に製造や製品のシェアを奪われ、日本の繊維業界全体が衰退し始めていた時期だったのです。そんな状況を打破しようと、イベント会場を借りて自身でつくったニットを販売したり、東京の展示会に出展したりといった行動を起こしたものの、状況が好転することはありませんでした。

「自分たちのつくったデザインを世に出したいという気持ちがすごい強くなっていきましたね。そんな時に、東京の展示会で出会った方から『アメリカでやってみないか』と声を掛けられたんです」

現状打破の突破口となる海外進出のチャンスを得た佐藤繊維。しかし、当時はまだ海外への物流網が整備されていなかった時代。アメリカでの展示会は「常に上手くいくものではなかった」と佐藤社長は当時を振り返ります。

「最初は手荷物でサンプルを持ち込んでいたのですが、物量が増えてきて海外輸送を使い始めると頻繁に荷物が届かないというトラブルが起きたんです。サンプルが展示会期間に到着せず、1カ月後にまったく違う場所に届いたというハプニングもありました。そんな状況だから商談も上手くいきませんでした」

そんな中、大きな転機が訪れます。その転機とは「物流の進化」です。運送会社の輸送技術やサービスの向上、デジタル化の推進、輸送状況の可視化が容易になったことなど、物流が整備されてきたことによって、海外輸出・配送がより簡単、確実なものになったのです。

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物流の進化という追い風を受けて、佐藤繊維の輸出事業は年々増加傾向にあります。例えば、ニット向け工業糸販売のシェアは、輸出事業比で5〜10%程度から30%程度と急増。輸出国もヨーロッパを中心に、アメリカ、アジア、中国など拡大していると言います。

「物流の進化であったり、運送会社のサービスの充実だったりという部分が大きいと思います。ネックだった輸送については、安全かつ正確にモノを送れるようになったのでクリアできていますし、ややこしかった関税の問題も、運送会社が前もって情報を教えてくれたり、すべて立て替えで対応してくれたりするので、現状は海外輸送に関する不安はありません」

現在は順調に海外ビジネスを展開している佐藤繊維ですが、海外輸送をする際にパートナーとなる運送会社の選び方には注意が必要だと言います。佐藤社長によると、運送会社を選ぶ際のポイントは「確実性」と「スピード感」にあるのだそう。

「確実に届けられる輸送網や技術、実績があることは大前提ですが、案件ごとの環境に合わせて、スピーディな対応してもらえるかどうかは、とても重要です。ここで言うスピードは、モノを送るスピードというよりも、問いかけた質問に対しての対応のスピード。スピード感を求められるファッションの仕事では、レスポンスの早い対応をしてもらえると、とても仕事がやりやすくなるんです」

いかにムダをなくし、効率良く仕事をするかは、あらゆるビジネスにおいて重要なこと。商品の到着までに、ある程度の輸送期間・輸送時間を要することになる海外ビジネスであれば、初動やレスポンスの悪さは、致命傷になりかねないものです。そういった意味では、多少のコストの差であれば、海外ビジネスを行う際は、サービスやスピード対応に優れた運送会社をパートナーに選ぶべきだと言えるでしょう。

製造に合わせた配送ではなく、配送に合わせた製造で輸送コスト削減と品質向上を実現

現在、佐藤繊維では、前金でお金を全額振り込んでもらってから商材を配送する決済方法を基本に海外ビジネスを展開しており、キャッシュフローも安定しているそう。これが実現しているのも「物流が進化したことが大きい」と佐藤社長は語ります。

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「いろいろなことが明確になって、物流コストを前もってお客さんに伝えられるようになったのが大きいですね。ヨーロッパのお客さまで後払いとなると、支払いトラブルも多々あるのですが、完全前金制を採用できると、そういったトラブルはほとんどありません。トラブルを回避するためには、双方が条件を理解・納得した上で、ビジネスを進める必要がありますが、現在はメールやビデオ通話があって、海外のビジネス相手がより近い存在になっている時代です。事前に自分たちのことや取り組みを説明する機会は容易に設けられますので、そこできちんと理解してもらえれば、トラブルは起きず、代金の回収もスムーズに行うことができます。入金後に配送をできるようになったことで、キャッシュフローも安定しました


「配送」に合わせた製造にシフトして輸送品質を向上し、コスト削減を実現
国内輸送と比べて海外輸送は、品質保持が難しく費用もかさむものです。そのため海外ビジネスを行う企業は、品質保持や輸送コストを少しでも削減するためにさまざまな取り組みを行っていますが、佐藤繊維では、梱包仕様や出荷業務において輸送品質を上げるため、「製造に合わせて商品を配送する」という考え方から「商品を配送に合わせて製造・保管する」という考え方にシフトしたと言います。

効率良く糸を積んで配送できるよう、発送内容ごとに運送会社やその配送のシステムに合わせて、ダンボールと糸の詰め方を変えています。効率的な輸送を行うために、製造の工程で糸の巻き方を変えたのも工夫した点です」

中には、どうしても対応できないものはあるものの、現在では佐藤繊維の糸は、ほとんど同じ大きさになっているのだそう。

「糸は、糸を作る機械や、撚糸する機械など、それぞれの機械の方法に合わせて巻かれるのがスタンダードなのですが、私たちは『佐藤繊維基準』というルールをつくることで糸のサイズを標準化させて梱包の最適化、効率化を行いました 

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在庫管理の標準化で出荷の体制をつくり作業効率を一気に削減 

佐藤繊維では、ファッション業界のスピード感への対応と物流コスト削減という2つの目的を果たすために業務面にさまざまな工夫を取り入れています。 

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在庫を誰にでもわかる形で「見える化」し効率化を実現
例えば、在庫管理や出荷の工程では、「誰でも在庫を確認でき、出荷できるような見える化」のシステムを実装していると言います。その「見える化」とは、商品がストックされるすべての棚に番号を付けてデジタルで一元管理するというもの。これによって、担当者でなければわからないという状況が改善。作業時間の短縮を実現させています。

「ウチの商品は、小ロット多品目であるため管理が大変で、何もしない状況では出荷までの作業にかなり時間がかかってしまいます。そこでスピード感を持って作業するために、すべての棚に番号を付けて、『何番の列の何番の棚、その何段目に入っているか』という見える化を行いました。ピックアップした商品は箱に詰めるだけで、すぐに出荷に移れます。これだけでもかなりの時間短縮が実現しました」

「すべての在庫を見える化する」在庫管理法が、採用されるきっかけになったのは、15年ほど前に佐藤繊維が始めた「ストックサービス」です。
ストックサービスとは、当時の繊維業界のスタンダードだった「染色していない糸を倉庫に保管して受注後にトレーナーでまとめて出荷(販売)する」という在庫管理〜出荷の流れを一新し、10kg-20kgずつ染色した糸を何千色もストックし1kg単位から販売するという佐藤繊維のプロダクト。顧客層を広げると同時に、消費者ニーズの多様化への対応も実現した、佐藤繊維の成長を語る上で欠かせないサービスです。

「ストックサービスで、1kgから誰でもすぐ簡単に買えるシステムに切り替えたときに、1件数千kg単位の注文が月に数件入るという状態から、1日に50-60件の注文が入るようになりました。製品を1kgずつ準備して毎日国内外の工場に配送しなければならないので、一見大変そうに思えますが、生産、在庫管理、出荷というフローが、誰でもわかり、対応できる状態になっていて、それをデジタルで管理できていれば、作業に時間を割かれることなくスムーズに対応できます。だからこそ、すべての在庫を見える化できるシステムが必要だったんです」 

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国内輸送と比べて費用がかさむ海外輸送。海外を相手にビジネスを行う際は、物流コストはもちろん、どのようにしてトータルコストを下げて、ビジネスを継続させていくかも重要になります。そのトータルコスト削減のために業務の効率化は、とても有効な手段です。

「これまでいろいろなトラブルがあって、進化しながらやり方を変えながら現在に至ります。できてしまえば当たり前ですが、こういったことを、当たり前にできるようになったことが、国内外でビジネスを続けていられる大きい理由なのかなと思います」

トライアンドエラーを繰り返して理想的なコスト削減や効率化の方法を見つけ出した、佐藤繊維。その取り組みは、海外との取引がある企業や多品目を取り扱う企業はもちろん、多くの中小企業の参考になるはずです。

発見POINT

  • お客さま起点の「自社ルール・規格」づくりで全体コストのコントロールが実現

    “製造した商品を配送する”という考え方から、“商品を配送(納品形態)に合わせて製造する”という考え方にシフトすることで、梱包時のムダがなくなり、輸送コストを削減することができます。この際に重要になるのは、まずお客さま起点で商品梱包の自社ルール・規格をつくり、それに準拠した製造を行うことです。規格が統一されることによって、配送だけではなく、在庫管理でもムダがない効率的な運用も実現。複数面から物流コストの削減にアプローチできるようになります。また、ムダをなくして効率的にモノを運ぶためには、実績やスピード感のある対応をしてくれる運送会社を選ぶことも重要です。

  • 小ロット多品目・多配送の効率化は、在庫と出荷状況の見える化が効果大

    在庫管理や出荷対応が煩雑な小ロット多品目な商品を取り扱うことによる作業負荷は、在庫と出荷状況の見える化によって軽減することができます。例えば、「商品がストックされるすべての棚に番号を付けて、管理場所と在庫状況を紐づけた状態でデジタルを使って一元管理する」といった方法を採用すれば、倉庫の商品状況が「見える化」され、在庫状況の把握やピッキング作業が楽になるほか、出荷までの作業もスムーズになり、作業負荷を低減することができます。

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