
シーズンごとのセールや、クーポンによる割引。多くのアパレル企業が売上アップや在庫一掃のために導入している施策ですが、マザーハウスでは「セールをしない」方針を貫いています。根底にあるのはブランドを守るため、お客さま=ファンとのつながりを大切にするという考え方。同社のセールに頼らない在庫調整のポイントと、ブランドを支える独自のプロモーション戦略について、マーケティング・広報の小田靖之さんに聞きました。
価格ではなく、商品の背景をお客さまに訴求する
――マザーハウスではセールをしない、とのこと。なぜでしょうか。
当社では「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げており、お客さまにファッションとしてのビジュアルや機能性という価値だけではなく、商品の背景まで伝えることを大切にしています。商品がつくられた意図や、生産地の職人に適正な賃金を支払うこと、どんな人たちが作ったかなどの裏側も含めてお伝えしたうえで販売する。こうした考えがベースにあるため、商品の価格を下げて売るということは、ブランドの価値を守るという点からもしていません。

――シーズンごとの商品の入れ替わりにはどう対応しているのでしょうか。
バッグなどは素材に季節感があるものもありますが、基本的にはシーズンごとに買い換えるアイテムではないため、商品はシーズン関係なく、通年で扱っています。この点も、セールが必要ない理由の1つです。
自分たちの生産キャパシティの中で最大限できることを、お客さまとの関係性や売上予測を見ながら細かく調整してやっていくというのが、マザーハウスのスタイルです。
余剰在庫を持たず、今ある在庫の中で臨機応変に調整する

――ECと店舗では、具体的にはどのように在庫の調整をしているのでしょうか。
物流倉庫は一元管理していて、店舗とECにわけて商品を振りわけています。ただ、店舗の在庫に余剰があればECに回すこともありますし、逆もしかりで臨機応変に対応します。倉庫を介さずに、商品が欠品している店舗へ別店舗から送ることも多いです。
というのも、過剰在庫を持たないために、今ある在庫の中でどうやって効率良く回していくかを考えることが当社の文化として根付いているんです。ただ、店舗発送が増えすぎるとスタッフの手間が増えてしまうため、どうしたら効率良く在庫の共有ができるかは改善を続けています。
――売れ行きの予測はどのように立てているのですか。
基本的には、MD(マーチャンダイザー)が店舗の過去の販売実績データを見ながら、「この店舗はこういう傾向のお客さまが、こういう商品を買っている」などをふまえて適正在庫を週ごとに判断しています。
マザーハウスではいわゆる定量データだけではなく、お客さまの定性データを店舗スタッフが細かくシステムに入力し、売上予測につなげています。お客さまごとに、接客時に投げかけた言葉やどんな提案をしたか、どのような目的で来店されて何を購入したかというお客さまの行動、それはなぜかという分析まで、スタッフが入力します。この情報は全社で共有し、売上などの定量データとあわせて分析しています。
ECでも店舗ほど情報は取得できませんが、基幹システムやSNSのシステムから抽出できるデータを取得し、顧客データとミックスして分析などをしています。
こうしたデータの積み重ねと、データにもとづく改善を繰り返して、売上予測や適正在庫予測の精度を高めてきました。
価格以外で伝える価値を大切にする

――お客さまと店舗スタッフがどんなやりとりをしたかまで、データを積み上げているんですね。想定外に商品の動きが悪いときは、どのような対応しているのですか。
中には、売れると考えて在庫を確保したものの、動きがあまりない商品もやはりあります。とはいえ、そもそもマザーハウスでは「在庫があまる」という認識がないんです。なので、最後までしっかりとお客さまにお届けするために何ができるか、常に考えています。
例えば、マザーハウスには、お客さまから回収したバッグをリメイクして新しい商品をつくる「RINNE」というシリーズがあります。残っている商品をこのリメイクの材料として使うこともあります。
また、「最後の1品展」というイベントを開催して、過去に人気だった品の最後の数点を集めて店舗に期間限定でディスプレイすることも。ブランドのこれまでの歩みをお客さまに伝える機会になりますし、「最後の1つ」と言われるとまた違った価値を感じられますよね。大事なのは、商品の価値の伝え方とそこにユーモアがあるかどうか。それによって、「あまった品」なのか「価値ある品」なのか、お客さまの印象が大きく変わると思います。価格以外で伝えられる価値を大切にしています。
伝えたい情報に合わせてメディアを使い分ける
――お客さまにブランドのストーリーを知ってもらうために、プロモーションで意識している点を教えてください。
途上国で商品をつくるという文脈は大事にしていますが、それだけだと敷居が高いイメージを持たれてしまいます。代表兼デザイナーの山口の想いや、現地のものづくりの様子を伝えることも重視していますが、やはりお客さまが商品買う一番の理由は、自分が使いたいと思うかです。プロモーションにおいても、ファッションとしての華やかさや上質さ、楽しみ方を伝える意識を持っています。Youtubeで深いストーリーや細かな使い方を伝える一方で、Instagramではファッション性を中心に訴求するなど、伝え方、見せ方に強弱をつけながら取り組んでいます。

――マザーハウスの商品を買うお客さまは、ブランド自体のファンの方も多いと聞きます。お客さまとの関係性を深めるために、SNSやYouTubeなど各種媒体をどのように使いわけているのでしょうか。
プロモーションは主に(ファン)リピータの獲得を目的にしており、継続的な発信は欠かせないと考えています。媒体によってお客さまへの伝わり方や深度が異なるので、伝えたい内容にあわせて媒体ごとに使いわけています。例えば、商品の背景や想いを伝えたり、使い方の提案をしたりするのはYouTubeがメインです。ある程度の目的と興味を持ってくださるお客さまに深い情報を伝えられるのがYouTubeの特徴だと思います。

Instagramは広く拡散したい情報を展開。ビジュアルを重視して、「かわいい」「ほしい」と思っていただけるような投稿を意識しています。Facebookではよりパーソナリティのあるコミュニケーションを重視しています。あとは、メルマガ。開封率が高く、お客様に深い内容をお伝えするという点で重要度が高いツールです。


――メルマガの開封率が高いのはなぜでしょうか。
メルマガでは商品案内だけでなく、イベントのご案内や新しい取り組みの紹介などもしています。そのためか、メルマガ読者には、何度もお店に足を運んでくれるお客さまやスタッフと顔なじみのお客さまも多いんです。マザーハウスの活動自体に関心を持ってくれているお客さまが多いことが、メルマガの開封率に表れていると思います。
――まさに、お客さま=ファンですね。
売上の数字だけを見るのではなく、長く、深く、ブランドのファンでいてくれるお客さまを増やしていくことで、セールや過剰在庫に振り回されず、ブランドの価値を高めていけるのではと思います。