
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げ、2006年にバングラデシュからスタートしたマザーハウス。現地の素材を用いて、現地の人の手で生産されたプロダクトを日本を含めた4カ国で販売し、多くのお客さまに親しまれています。文化の異なるそれぞれの国で、マザーハウスではどのようにして現地生産の体制を構築してきたのでしょうか。マーケティング・広報の小田靖之さんに話を聞きました。
自立した海外生産拠点をつくる

——マザーハウスでは、現在、バングラデシュ、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマーの6カ国に生産拠点を置いています。買い付ける形ではなく、自社で生産体制を整えてきた背景には何があるのでしょうか。
今は会社としての規模も大きくなり、ノウハウも蓄積したため大きなトラブルはありませんが、代表兼デザイナーの山口が創業したばかりの頃は、それこそ資金を持ち逃げされたり、オーダーしたアイテムの仕上がりがイメージと違っていたりなど、トラブルがたくさんあったそうです。15年前のことなので現在とは状況が違いますが、こうした失敗経験から、生産管理、品質管理の面からも、自分たちで管理できる自前の工場や工房を持つべきという考えにつながりました。また、イメージ通りの商品をつくるために、山口自身が現地に出向いて職人と一緒に手を動かしながらものづくりに関わっていくという今の体制が出来上がりました。

——自社で一貫して生産から販売まで手がけることで、安定供給につながっているんですね。それぞれの国でどのように商品を生産しているのでしょうか。
今では現地法人だけで黒字化できる状態になっています。日本にいる私たちと現地のスタッフは頻繁にオンラインミーティングをおこない、各製品の売れ行きやマーケティング分析による生産計画、お客さまのフィードバックから得られた品質に関する要望などを伝え、細かくコミュニケーションをとりながら、ものづくりをしています。
成功したスキームでも他国に横展開はできない
——現地法人で自走できているんですね。ほかの国はどうでしょうか。
バングラデシュが工場で生産しているのに対し、ストールをつくっているネパールでは工房で生産するスタイルをとっています。工房というか、ほぼ家ですね。ネパールの男性は近隣国に働きに出る人が多く、女性が家でものづくりに携わる文化があるんです。蚕を作る人、糸を紡ぐ人、染色する人など工程ごとに分担していて、それぞれが自分の家で作業し、次工程の人にものを受け渡して、最終的な商品が生まれていきます。
——国ごとにものづくりの体制がまったく異なるんですね。
ものづくりの仕方も、考え方も違いますし、扱っているものも異なるので、1つの国で成功した生産のスキームをそのまま別な国に横展開するのは難しいと感じています。だからこそ、現地の文化や考え方を理解したうえで、それぞれにあった生産体制をつくる必要があります。

——新しく進出しようとした国で、うまくいかなかったことはありますか。
今、インドネシアではジュエリーを生産していますが、最初はインドネシアの伝統衣装のバティックで日本向けのアイテムを作ろうと考えていたんです。しかし、現地で調査していろいろな方の話を聞く中で、やっぱり日本人のお客さま向けにはあわないかも、という結論に至りました。
また、途中まではいい感じで進んでいたものの、量産体制ができずに計画を変えたことも。例えば、以前ラオスの手刺繍の布を生産する準備をしていたのですが、1mつくるのに1日かかりますと言われて。量産が難しく、全店舗で取り扱えないため、初回ロットだけ生産して期間限定で販売することになりました。
——実際にやってみないとわからないことも多いんですね。
そうですね。近年だと現地の情勢が大きく変わってミャンマーでの生産ができなくなったり、コロナ禍で工場がストップしたりなど、想定していなかったリスクを抱えることもあります。
商品がつくれないと売上につながらないのですが、マザーハウスとしてはその国や職人の可能性に光をあてたいですし、多少のリスクは想定しながら、できる限りのことをしていきたいと思っています。

——現地の方々を理解し、いい生産体制を構築するために、どんなことを意識していますか。
最初私たちが現地に行って、「こういうものづくりをしたい」と話すと、「そんなのは無理」「つくれない」と言われることがよくあります。そこで諦めずに、マザーハウスが何を目指しているのか、なぜそれをするのかを現地の方々に丁寧に伝えるようにしています。
船便のリスクを梱包で回避する
——現地から日本への輸送においてはどのようにしているのでしょうか。
現地でものをつくり、配送会社にお渡しして日本に届き、検品後倉庫で保管し、各店舗に発送していくという、一般的な流れです。
ただ、マザーハウスでは余剰在庫を持たないよう、品薄になってきたタイミングでこまめに商品を輸送しているため、物流コストがどうしてもかかってしまいます。そのため、急ぎの配送は航空便、時間にゆとりのある配送は船便とふりわけています。物流にかかる時間を想定したうえで、あらかじめ生産スケジュールも組んでいます。
——海外からの輸送や検疫などで苦労したことはありますか?
船便の場合、輸送環境がよくないことがあります。以前、商品が入った段ボール箱が水に濡れてしまったことがあり、今は段ボール箱自体をラップでぐるぐる巻きにして、水が入らないようにしています。他にも、湿気の多い環境で運ばれると商品にカビがはえてしまうことがあるため、段ボール箱の中にシリカゲルを多数入れたり、カビが発生にしくい梱包の仕方や数量を検討しりたと、いろいろな工夫をしてきました。
また、マザーハウスでは「Little MOTHEHOUSE」というチョコレートブランドを展開しています。インドネシアで採れたカカオからチョコレートをつくり、日本で加工しているのですが、加工において自然由来のフレイバーを入れています。その中に台湾や香港では輸入規制に引っかかってしまうものがあるんです。チョコレートは世界に広げやすい商材なので、製品開発の段階から世界を意識することが大事だと感じています。成分に関しては、世界中一律のものを販売する必要もないと思っており、その国々特有の食文化もあるため、それに準じたものを開発することも必要だと感じています。

——最後に、よりよい現地生産の体制をつくるために、今後取り組んでいくことを教えてください。
現在、6カ国の生産拠点では現地法人を立ち上げ、現地の代表を立てて運営し、彼らによって現地の従業員を採用しています。こうした中で、すべての従業員にマザーハウスの理念を深く理解してもらえているかといえば、必ずしもそうとは言えません。
しかし、理念は一緒に働いていく中で時間をかけて浸透していくものだと思います。まずは、従業員がここで働きたいと思う環境を整える。そうすることで人が集まり、一緒にものづくりに取り組むことで、マザーハウスで働いていることを誇りに感じてもらえると思います。こうした環境づくりに力を入れることで、ひいてはお客さまに、よりよい商品をお届けできるようになると考えています。
