輸送の高度化とシームレスな一貫輸送でクリアするリードタイム短縮化

輸送の高度化とシームレスな一貫輸送でクリアするリードタイム短縮化

2021.09.28

【プロフィール】 ※掲載記事の内容は取材当時のものです。
寺嶋正尚(てらしま まさなお)
神奈川大学経済学部教授。慶應義塾大学経済学部卒業、筑波大学大学院経営・政策科学研究科、経営システム科学専攻修了。博士(経営学・筑波大学)。専門はマーケティング・リサーチ、ロジスティクス。

リードタイム短縮化をはじめとした、買い手側からのニーズの多様化・細分化が進んだことによって、売り手企業側は、自社の経営や業務を見直す必要性に駆られています。多様化していく得意先の物流ニーズに対して、企業はどのような対応をしていくべきなのか。マーケティング・リサーチ、ロジスティクスを専門とする神奈川大学経済学部の寺嶋正尚教授にお話を伺いました。

多様化する買い手企業の要望と、それによって生じる売り手企業の課題

――近年、物流に関する買い手企業のニーズが多様化・細分化していることで、売り手企業の物流や経営に大きな影響が生じていると聞きます。具体的に買い手企業からどのような要望があるのでしょうか?

寺嶋正尚

輸送に関する代表的なものとしては、リードタイムの短縮化、時間指定納品、多頻度小口輸送、緊急輸送などが挙げられます。契約書に記されていない、いわゆる「書面化されていないサービス」を要求されることもあります。輸送したついでに、フォークリフトを使って物流センターに格納することを求められる、何らかの基準に従って商品を分類することも求められるなど、その要望は多岐に渡ります。
できるだけリードタイムは短く、商品の到着時間は○時厳守でプラスマイナス15分しか許容しない、もちろん温度管理などの品質管理はしっかり行い、輸送に付随した荷役や流通加工などの要望にも応える…という、買い手企業の様々な要望を満たす物流が求められています。

これは、売り手企業と買い手企業の力関係を考えたとき、致し方ない面があるのかも知れません。ビジネスでは、お金を払って商品を買う方が優位になりがちです。もちろん買い手企業による優越的地位の濫用は許されないことですが、実際には、買い手企業による要求は強まるばかりではないでしょうか。売り手企業としては、何かしらの対策や改善を施して、経営や業務を健全化する必要があります。

――そのような買い手企業の多様なニーズに対し、売り手企業はどのような対応をしていかなければなりませんか?

売り手企業は買い手企業の様々な要望に応じなければなりません。日本の場合、荷主企業が自ら物流を行うこと、つまり自社物流のケースが多いのですが、買い手企業の要望に適切に応えるには、売り手企業としては優秀な物流会社を見つけ、そこを信頼して物流業務一切を極力アウトソーシングしていく、そんなアプローチが重要だと思います。

買い手企業が大手企業である場合、その買い手企業は、自社にとって望ましい専用化されたシステム、「自社専用システム」を築いていることが少なくありません。しかし、売り手企業や、売り手企業がアウトソーシングした物流会社の視点に立てば、買い手企業にとって、もっと望ましいシステムを構築できる可能性があります。とは言え、その提案を買い手企業が受け入れ、今からゼロベースで新しい物流システムを構築するのは、少なくとも短期的にはスイッチングコストが高すぎる。日々のビジネスでは、最適ではないけれども、買い手企業が主導権を握る形で、その専用化されたシステムをベースとした物流が行われるという場合が専らです。

売り手企業や物流会社が物流機能を提供するには、買い手企業の物流システムをすでにあるもの、制約条件として扱い、その中で様々な効率化や改善を講じていく必要があります。そのためには売り手企業及び物流会社としては、買い手企業が要望するどんな状況にも対応できるよう、自社の物流機能を高度化したり、高いオペレーション技術を導入したりといった対応が求められます。

――近年、在庫を出来るだけ持たずに、キャッシュフロー経営を目指す動きが見られます。こうした動きは、輸送にどのような影響を与えるでしょうか。

在庫を抱えるということは、キャッシュを眠らせることなので、本当に売れるもの、本当に使えるものでなければ、できるだけ持ちたくない、そこにお金をつかうなら他の投資につかいたいというのが企業の本音でしょう。しかし、在庫を持たずに経営を回していくことは、なかなか難しい。

物流の6大機能の中で特に重要視されるのは「輸送」と「保管」です。近年は、在庫を極力持たずに、キャッシュフロー経営を目指す動きが顕著です。しかし少ない在庫でビジネスを回すには、もう1つの物流機能である“輸送を上手に行うことができる”ことが絶対条件です。例えば、買い手企業から緊急注文が入って、すぐに納品しなければならない状況では、売り手企業が十分な商品を保管していれば、どんな注文が来ようと、即時の対応が可能です。しかし在庫がなければ、自社の他の物流拠点あるいは製造工場から、すぐに取り寄せて、輸送しなければならない。つまり、在庫対応ができないビハインドをカバーするためには、輸送で対応せざるを得ないのです。そうでないと買い手企業が求める納期が守れなくなってしまいますから。
つまり売り手企業が、買い手企業からの厳しい物流条件を満たしつつ、自社では極力在庫を抱えず経営を回していこうとするのであれば、やはり“輸送の高度化を進めていくこと”が不可欠です。

――とは言え、リードタイム短縮化への対応は、売り手側の企業にとって、なかなか難しい問題ではないのでしょうか。

先述した通り、買い手企業によるこういった要望が弱まることはほぼないので、どのように対応するか、を考えるしかないと思います。そもそもなぜ「リードタイムの短縮化要請」のような、物流に関する過剰サービスの要求がまかり通るのかというと、その背景に日本特有の取引形態があるからなんです。

その代表的な例が、『商品の売買価格には物流コストが含まれている』というもの。A社がB社に商品を1,000円で売るケースを考えてみましょう。その時、A社は、その1,000円でB社が指定する場所(軒先)まで商品をお届けしなければなりません。1,000円という価格の中には、お届けする物流コストが含まれています。

B社からすると、同じ1,000円を支払うのであれば、より良い物流サービスを要求することでしょう。買い手企業が、リードタイムの短縮化、時間指定納品、多頻度小口配送、緊急配送などを気軽に要求する背景の1つには、こうした事情があります。

物流費込みの売買価格ではなく、物流費を外に出す形での売買価格であれば、こうした問題は起きません。コストオン方式のプライシングです。1週間に3回運ぶならプラス100円、毎日運ぶならプラス150円、1日2回運ぶならプラス200円、のようなメニュープライシングにすれば、買い手企業は自社にとって望ましい物流条件を選択することでしょう。しかし日本ではこうしたコストオン方式のプライシングは一般的ではありません。

買い手企業のニーズを実現するために売り手企業がすべきこと

――売り手企業は、輸送の高度化や高いオペレーション技術の導入が不可欠になるということですが、具体的にどのようなことをしていくべきなのでしょうか。

寺嶋正尚

一口に輸送の高度化と言っても、その具体的な方法には様々なものがあります。例えば、分かりやすい事例として、商品を運ぶ手段である「輸送モード(機関)」について考えてみましょう。
代表的な輸送手段には、トラック、船、航空、鉄道などがあります。さて商品を運ぶには、どの輸送手段が望ましいでしょうか。複数ある輸送手段から、望ましい輸送手段を選択するには、それぞれの輸送手段のメリットとデメリットを考えて、意思決定しなければなりません。

日本で最も良く使用される輸送手段はトラックです。唯一売り手企業から買い手企業へDoor to Door輸送することができる使い勝手の良さがメリットです。トラックなら24時間、いつでも物流拠点から出荷することができ、緊急発注への対応なども可能です。しかしトラック輸送は大変便利である反面、一度に大量の商品を運ぶことができない。つまりコストが割高になってしまう。道路渋滞や事故の影響を受けて時間が読みにくい、というデメリットもあります。

一方、船を使用する場合は、大量の荷物を運べる一方、港から港までしか運ぶことができない。そのためどうしても「トラック→船→トラック」という流れになり、リードタイムが長くなってしまう。積み替えが生じれば、温度管理などの品質管理も難しくなる。荷傷みも生じるかも知れない。結果として今日の日本では、輸送手段の中でトラック輸送が圧倒的なシェアを握る状況になっています。

このように、輸送機関の選択1つを見ても、それぞれの輸送手段のメリットやデメリットを勘案して、その取引あるいは自社の物流にとっての最適な方法を選んでいくことが重要です。

――メリットとデメリットを照らし合わせながら、自社にあった形を見つけ出すということですね。輸送の高度化において注意すべき点はあるのでしょうか?

物流の基本は、「出来るだけ触らない」ということです。積み込んだり、降ろしたり、を繰り返せばそれだけ手間がかかり、人件費がかかります。また積んでいる商品も傷んでしまう。コンテナに積んで、そのままの形で取引先まで一貫輸送をすること(コンテナリゼーション)は非常に重要なアプローチです。
しかし、買い手企業からの注文がいつもコンテナ満載の量であるとは限らない。何しろ、買い手企業からの注文は「多頻度小口」がベースです。コンテナが満載になるまで、輸配送を遅らせるのは無理な話でしょう。
現実には、上述した様々な輸送機関を組み合わせて、そのうえで「出来るだけ触らない物流」を目指すことが重要です。要は物流の流れが細切れにならないようにすること、一貫輸送でできるだけ荷姿を変えず、シームレスな流れをつくることが重要です。

一貫輸送を実現するには、何より情報システムの整備が不可欠です。トラック→船→トラックという形の物流を考えた時、今、荷物はどこを動いているのか、どんな形で動いているのか、いつ出たのか、いつ到着するのか…といった物流の情報を一元管理しなければなりません。

――輸送を高度化していく上で、サービスレベルやコストについてはどのように考えれば良いのでしょうか?

望ましい輸送を考える際、サービスレベルとコストのバランスを考えることは重要です。お金をかければ、良い仕組みができるのは当然です。輸送であれば、可能であればどんな商品も航空便で運べばいい。しかしそれだとお金がかかってしまう。
サービスレベルと、かかるコストの間には、トレードオフ(二律背反)の関係があります。トラックのサービスレベルは高いけれどコストがかかってしまう、船や鉄道のサービスレベルは低いが低コストで済む、といった具合です。コストを重視するのか、サービスレベルを重んじるのか、そのバランスを上手くとって、取引先への物流にとっての最適解を見つける必要があります。
また、輸送だけにフォーカスを当てるのでなく、物流全体の視点で考えることも重要です。先ほど申し上げたように、物流で最も重要な機能は輸送と保管ですが、両者の間にもトレードオフの関係がある。輸送コストを下げようとすると保管コストが上がる、保管コストを下げようとすると輸送コストが上がるという関係です。どちらか一方のコストを下げようとするのではなく、そのトータルコストを下げる視点を持たなければなりません。さらにはコストとサービスレベルのトレードオフも考慮しなければならない。

ミドルマイル拠点やアウトソーシングの利用は様々な課題の改善につながる

――多様化する買い手企業のニーズに対応するためには、中間拠点にあたるミドルマイルの存在も重要なのではないかと思います。売り手企業の物流戦略におけるミドルマイルの位置づけは、どのように考えれば良いのでしょうか?

寺嶋正尚

ミドルマイルの物流の整備は、企業にとってとても大切です。企業間取引に該当するミドルマイルの物流は、より効率化、コスト削減がシビアに出てくるところなので、どこに、どのように商品を保管したら良いか、そしてその在庫拠点から取引先までどのように商品を運べば良いか、などをトータルで考えなければなりません。
個人的には、日本は、ミドルマイルの物流のサービスレベルは、非常に高い国であるように感じています。先に述べたように、買い手企業による過剰な物流サービスの要求が常態化していますが、売り手企業やその委託先である物流会社は非常に優秀ですから、こういう要望を1つひとつクリアしてきた。要は対応してきたわけです。日本の物流のサービスレベルは、諸外国に比べて本当に高い。

例えば大手小売業などを見ると、その多くは自社専用の物流センターを構えています。そして売り手企業のメーカーや卸売業は、この物流センターに納品します。この物流センターでは、小売業の各店舗の状況を考慮した「通路順別一括納品」などが実現できるようなオペレーションが行われます。さらに、買い手企業の販売事情を考慮したパッケージや流通加工なども行われます。

しかし確かに日本のミドルマイルの物流のレベルは高いのですが、サービスレベルが高い一方、コストが割高になっている面がある。買い手企業の事情に合わせた専用化が進みすぎてしまい、そのエリアで見た場合、買い手企業A社の専用物流センター、B社の専用物流センターなどが数多く作られ、それらがある特定エリアで見たときに、重複投資、無駄な投資になっていることは少なくありません。

これからは人口が減少し、需要が減退し、売上高が伸びない時代です。こうした時代に望まれるのは、より効率的なしくみになるでしょう。買い手企業の視点に立った専用化されたシステムが許容される時代でなくなる可能性が高い。ではどうしたら良いのか。本来、こういったミドルマイルの物流は、より多くの企業が利用できる汎用型のシステムが理想的だと思います。買い手企業主導の専用化された物流システムでなく、物流会社が主導権を握る形で、誰もが使用できる汎用型のシステムを確立していく。汎用型拠点の利用者が増えれば、荷主企業は、よりレベルの高いサービスをローコストで利用できるようになりますから。

図1 サプライチェーンの一例
図1 サプライチェーンの一例

――「ニーズの多様化への対応」「業務課題解決」のためのアウトソーシングは、どれくらい価値があるのでしょうか?

トラックやバンのドライバーが得意先に対する営業も担当する、などのケースでは、荷主企業が自ら物流を行うこと、つまり自社物流が望ましい場合が考えられます。でもこれは例外です。物流の基本は、規模の経済、範囲の経済です。その視点に立てば、荷主企業は自社で物流を行うべきではない。物流会社にアウトソーシングするべきです。

さらにそのアウトソーシング先にしても、可能であれば、委託先を1社にまとめるべきでしょう。何社かの物流会社に委託し、競争原理を働かせた方が望ましい…という考え方もありますが、私はそうではなく、真に信頼できる委託先物流会社と長期的な関係を結び、より大きな果実を得るべきだと思います。今回のテーマである「シームレスな一貫輸送」も、アウトソーシング先の物流会社を1社に集約することで、よりやりやすくなることでしょう。コスト削減や、輸送品質の向上も大いに期待できるのではないでしょうか。




発見POINT

  • キャッシュフロー経営は、輸送の高度化が前提条件になる

    在庫を抱えていない状態では、即時・緊急の納品が発生した場合の初動に大きなロスが生じてしまいますが、輸送の高度化や高いオペレーション技術の導入が進んでいるのであれば、輸送でカバーすることも不可能ではなくなります。

  • 一貫輸送によるサプライチェーン全体の可視化が課題解決につながる

    配送の迅速化や到着時間のピンポイント化など、物流プロセスの向上は、消費者にとって当たり前になってきています。安定性を保ちつつ、より高い要望に応える物流プラットフォームの構築や、サービスのバリエーションを拡充させることが、ラストワンマイル戦略において重要になるでしょう。

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