1955年の創業以来、地元山梨県のぶどうを使用したぶどう酢(=ワインビネガー)を製造・販売してきたアサヤ食品。当初は業務用専門メーカーでしたが、道の駅などでの一般流通に進出、そして近年「アサヤビネガー」という新ブランドを立ち上げ、ECにも販路を拡大しました。これまでとは異なる領域への進出に、人員配置やWEBサイトの活用、梱包の工夫、ラベラー・在庫管理システムの導入などさまざまな取り組みを推し進めた同社。その戦略や今後の展望についてご紹介します。
EC販売+新ブランド立ち上げで商品へのこだわりを消費者に直接伝える

従来は飲食店などに卸す業務用ワインビネガーの製造が中心。一般消費者が商品を手に取れる機会は、山梨県内の土産物店や道の駅などの実店舗のみでした。そんなアサヤ食品がEC販売を開始したのは2017年。老舗のワインビネガーメーカーがEC販売にも力を入れるようになったのは、商品のこだわりや価値を消費者に直接届けるためでした。

新ブランド「ASAYA VINEGAR」では、ワインビネガーの味わいや製造方法はそのまま継承する一方で、パッケージなどの外観を一新しました。瓶の形状をワインのようなボルドー型にしたり、高級感のある商品ラベルに変更したりするなど、国内で販売されている一般的な酢との違いが明確に伝わる工夫を施しました。
ECサイトでは、TOPページにワインビネガーの製造工程を写真付きで公開。ホームページにも同様に掲載し、山梨県産ぶどう100%使用や添加物不使用、長期熟成などのアサヤ食品の強みをアピールしました。

国内でも徐々にワインビネガーの知名度は高まっていますが、商品が造られる工程はほとんど知られていません。だからこそECサイトやホームページで製造工程を公開することで、丁寧な食品づくりをアピールできると考えました」(杉山さん)
アサヤ食品は商品のこだわりを表現するため、ECサイトやホームページで製造工程を公開。丁寧な食品づくりを訴求することで、価格以外の価値訴求を行っています。
EC化によって実現できた3つの効率化

①EC担当スタッフの配置
EC販売を開始した当初は、サイトの運用や梱包・発送など一連の業務は社長の杉山さんが1人で対応していました。ただECサイト経由の注文数が徐々に増える中で、1人でEC事業を担当することに限界を感じるように。そこで2019年より新卒として入社した早川さんをEC担当スタッフとして配置し、より細やかに対応できる体制を整えました。

EC担当スタッフを置いたことで、ギフト包装や急ぎの発送など、お客さまの細かなニーズに柔軟な対応ができるように。サービスレベルの向上につながりました。
「電話経由のご注文の場合、繁忙期は電話を取り損ねてしまったり、聞き間違いなどによる認識相違などが発生したりすることもありました。
EC販売では、注文が入ると即座にメールで通知されます。受注にすぐに気付けるので、急ぎのご依頼にも漏れなく対応できるようになりました。またギフト包装など個別のご要望は注文画面の備考欄に記入いただくようご案内しているので、お客さまのご要望を正確に把握できる点もECサイトのメリットだと思います」(早川さん)
②在庫管理システムの導入
ECサイトでは、在庫管理システムの存在が重要です。在庫管理システムとは、在庫の過不足をなくすため、商品の在庫数や入出荷の件数を正確に把握・管理するための仕組み。アサヤ食品ではEC販売を機にクラウド上の在庫管理システムを導入したことで、より効果的な商品販売ができるようになったと語ります。

ECサイト導入前はExcelなどのリストで販売数と在庫を手作業で管理していたため、現状の在庫数を確認するのに時間がかかるのが課題でした。在庫管理システム導入後は、システム上で正確な在庫数をすばやく把握できるように。在庫状況にあわせたSNSやメルマガでのプロモーションが可能になり、販売スピードも従来に比べて15%早まりました」(杉山さん)
バルサミコ酢はEC販売だけでなく、2020年頃からふるさと納税の返礼品としての提供も始めています。在庫管理システムによって商品の在庫状況をリアルタイムで把握できるようになったことで、販売チャネルの拡大につながったと言えます。
③ホームページに商品を活用したレシピ掲載
アサヤ食品ではブランディングやリピーター獲得のため、ECサイトとあわせてホームページの運用にも力を入れています。その取り組みの1つが、ワインビネガーやバルサミコ酢を活用したレシピ掲載です。
「ワインビネガーやバルサミコ酢は国内でも徐々に知名度が高まっていますが、『どう使ったらいいのか分からない』という方は多くいらっしゃいます。そこでホームページ上に、商品を使ったレシピの掲載を始めました。
開始当初は手の込んだ本格的なレシピを載せていましたが、ワインビネガーを身近に感じてもらうように手軽で美味しいレシピも掲載するように。商品をかけるだけで作れる簡単レシピはSNSにも積極的に投稿しており、そうした投稿を見てご来店いただいたケースもありました」(早川さん)

作業の自動化で梱包のこだわりをさらに追求

「新たに開発した150mlサイズの瓶では、原料などを記載した商品ラベルのほか、ブランド名を記した細長いラベルを瓶のネックに貼り付け、高級感を演出しています。ただ1商品あたりのラベル数が1枚から2枚になったことで、ラベルの貼り付け作業の負荷が増えました。
また瓶の種類が増えたことで、梱包の作業コストも増えました。お客様によって注文内容が大きく異なっており、150mlの瓶と720mlの瓶を一緒に注文したり、箱入りのギフトセットと瓶単体を注文したりする場合も。商品の組み合わせによって梱包で気をつけるポイントも異なるので、梱包の手間は増えましたね」(杉山さん)

ただ梱包作業は、商品の品質を左右する重要な工程です。効率化に取り組むことで、配送中に瓶が割れてしまうリスクが高まる可能性があります。そのため作業コストを削減できる業務の効率化を進める一方で、梱包などサービス品質に関わる工程に注力できるフローを構築しています。
商品の魅力を消費者に届けるため、EC販売にも力を入れるようになったアサヤ食品。販路や客層が拡大したことで、配送や梱包における課題発見や効率化につながりました。EC開業の経緯や運用後のメリットは、これからEC事業に取り組む企業のビジネスのヒントになるのではないでしょうか。