ECと実店舗の同時運用で現場は疲労困ぱい? オムニチャネル化で発生しうる出荷トラブルをチャンスに変えた取り組みとは

ECと実店舗の同時運用で現場は疲労困ぱい? オムニチャネル化で発生しうる出荷トラブルをチャンスに変えた取り組みとは

2022.09.22


 
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株式会社シラトリ

1920年創業のスポーツショップ。静岡県、神奈川県、山梨県で10店舗を展開している。「まちの運動具店」という経営理念のもと、地域に密着した店舗運営を行いながら、近年は自社サイトや大手ECモールを中心にEC事業も展開。全国的に販路を拡大している。

 

EC事業をはじめとするオムニチャネル化は、多くの企業にとって喫緊の課題といえます。その一方で、チャネルの増加による急速な事業拡大は、出荷業務の複雑化と担当する現場の混乱をまねき、リードタイムの増加や作業ミスによるクレームにつながることも。では、スムーズなオムニチャネル化を達成するためには、どのような点を意識すればよいのでしょうか。想定されるリスクやその対処法を、スポーツ用品の販売を行う株式会社シラトリの例とともにご紹介します。



オムニチャネル化と出荷業務に潜む見えないリスクとは

2019年の新型コロナウイルス感染拡大を契機に、多くの企業にとってEC事業をはじめとするオムニチャネル化は、事業の安定や今後の販路拡大にとって欠かせないものとなりました。

新たな販路の開拓は、経営目線で見れば重要度の高いものであり、優先して実行したい取り組みだといえます。新たな販路、たとえばEC分野で売上が大きくなれば企業として良い状態へ向かっていると安心するかもしれません。

その一方で、急速な販路の拡大は現場の業務や体制の混乱を招き、現場の負荷増大とそれによる顧客サービスの低下を招いている可能性があります。売上が上がっていても、企業としての地盤がボロボロになっている、そんなリスクもあるのです。

一般的にこうした事態は、「業務の兼任」にあるといわれています。下記の項目に一つでも当てはまる場合は、現場の状況の精査が必要でしょう。

 
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オムニチャネル化に潜むリスクはさまざまですが、現状を正しく認識して対策を打つことで、スムーズな販路拡大を実現することができます。その取り組み例を見ていきましょう。



シラトリの取り組みとオムニチャネル化×通過型物流サービス導入のメリット

 「まちの運動具店」として地域に密着した店舗を展開し、地域の皆さまに健康とスポーツの楽しさを提供し続けてきた株式会社シラトリは、2011年頃からEC販売を本格的に開始しました。


 
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 それ以降、ECの出荷件数を年々伸ばし続けている一方で、「オムニチャネル化によって業務の煩雑さが課題になった」と株式会社シラトリ袋井国本店主任の秋月孝仁さんはいいます。

「当社はECと店舗販売の在庫を共有化しています。倉庫と実店舗はイコールなので、EC販売をすることは不良在庫の発生を確実に抑えられるメリットがありました。一方で、運営する9店舗それぞれでピッキングを行い、検品をしたうえで、出荷店といわれる4店舗に商品を集約する必要がありました。その結果、出荷・発送の手順が煩雑化してしまい、4店舗に指示を出す指示系統にも混乱が見られていました」(秋月さん)

 
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 また、実際の現場からの混乱の声について、シラトリテクノ株式会社NET室室長の鈴木和秀さんは当時をこう振り返ります。

「当社が扱っている商品は旬なものが多いので、実店舗が忙しいタイミングとECが忙しいタイミングが重なることも多々ありました。実店舗からすると、目の前にいるお客さまに対して接客しなければならないし、通販の方に商品を出さなくてはならない。人手は常に足りないから商品を出荷できない。そこにお客さまから確認の電話が入り、電話対応をするとまた出荷が遅れ、商品を出せない。こういう負のスパイラルにはまってしまいました」(鈴木さん)

現場の負荷も急激に高まり、お客さまへのサービスも低下。ECの売り上げは拡大する一方で、シラトリが元々大事にしていた店舗での顧客満足を維持することが難しくなっていました。

そこでシラトリは、受注・在庫管理システムの導入を含めた販売体制を一新しました。受注・在庫のデータを一元管理することで、これまで発生していたムダの多くが解決されたといいます。

「たとえば実店舗が倉庫在庫という捉え方をした時に、店頭に出さなくてもECで売れていく商品は結構あります。基本的に実店舗で販売するためには、その商品がいくらの値段でどこにあってという準備をしないといけないし、高額商品になると防犯システムをつける手間もかかります。ECでの販売データが連携されていないときは、売り場担当がやっとの思いで店頭に出した商品が、ものの10分でEC向けにピッキングされてなくなってしまう、といった話が結構ありました。そこをなるべくデータを分析して、その商品はECで売れるので、店頭には無理して出さないでいいです、という取り組みをおこなっています」(鈴木さん)
 
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 さらに、大きな負荷になっていた梱包・発送までの業務を専門業者がまとめて代わりに行う「通過型物流サービス」を利用することにより、課題となっていた現場の疲弊が大きく改善されたといいます。

「通過型物流サービスを導入する前は、自分たちで検品して、商品を畳んで箱に入れて梱包し、送り状を出して、というような一連の作業を行なっていました。それをベンダーさんにお願いして、お買い物情報のリストが自動で出る、送り状が自動で出る、送り状番号が勝手にCSVでパソコンに入ってお客さまに出荷メールを出せる、という段階までなんとか改善してきていたのですが、サービスを導入したことによって、ほぼ自分たちの手を介さずに、EC向けの出荷ができるようになりました」(鈴木さん)
 
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発送拠点のバックヤードは、以前は出荷を待つ商品や梱包材、作業台などで埋まっていたといいます。しかし、現在は最小限のスペースで簡単なピッキングやコンテナへの集約を行うのみ。業務の状況は大きく変わったといえます。

 
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物流業務の効率化がサービス向上につながった

 受発注のシステム化と通過型物流サービスの導入。そしてそれらを中心としたオムニチャネルに対応した体制の構築により、スタッフの業務負荷軽減を実現したシラトリですが、加えて店舗での接客対応の改善などさまざまな効果につながったといいます。

「業務過多による出荷ミスが減ったことによって、コールセンターで誤配送のクレームに対応する作業が軽減されました。配送業者を変更したことで、到着予定日を明確に回答できるようになりました。こうした業務からスタッフが解放されたことで、お店としてはその分の時間をお店の売り場づくりやお客さま対応に使えるようになりました。最初の頃は、やり慣れた作業が変わるということで、忌避感みたいなものはたしかにありました。しかし、実際に運用していくことで、業務が楽になったという声も次第にいただけるようになりました」(秋月さん)

業務の切り分けによる効率化は、シラトリのコア業務である専門性の高い接客の再活性化にもつながっています。

「店舗の売り場では専門性と温度感が非常に重要です。お客さまへの接客態度や説明によって、商品への温度感が上がって購入まで至ったり、逆に冷めてしまって購入しなくなることもある。まさにスタッフの腕の見せ所です。しかし、通販では、注文いただいた時点でお客さまが買うものは決まっているし、そこに対して温度はゼロ。そこから先の情報に関してはある程度機械的に、誰でもできる状態を目指すべきではないか、というのが私と秋月の考えでした。アルバイトでも新人でも、売り場からその商品を探してきて、ここに置けば仕事になるという状態を目指して、体制の整備を進めています」(鈴木さん)

 
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実店舗とECの組み合わせは、企業によってさまざまな形がありえます。しかし、自社の状況をデータ管理し、ムリ・ムダ・ムラを排除する姿勢や、業務を切り分けコア業務に注力し、それ以外の業務を外部に委託する取り組みは、業務負荷軽減の一つの解決策となります。今後販路拡大を目指す場合、あらかじめその対応策を決めておくのもよいでしょう。

発見POINT

  • 業務の切り分けと外注で、リードタイムと発注ミスの減少につなげる

    出荷・梱包業務を中心に、外部に委託できる部分を積極的に切り離すことで、自社内での業務の煩雑化を避けることができます。業務がスムーズに流れるようになることで、かえってよりお客さまの元に早く商品を届けられるようになり、発注ミスを減らすこともできるのです。

  • 物流業務の効率化により、スタッフがコア業務に注力できる環境をつくる

    物流業務が効率化することにより、これまで対応に追われていた時間を、本来のコア業務であるお客さま対応やお店の売り場づくりに使えるようになります。属人的でない業務からスタッフを解放することで、より高い専門性を発揮できるようになるのです。

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