生産性や業務効率アップのカギといわれている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。中小企業におけるDX化の取り組みをサポートするため、IT導入補助金が制度化され、募集が行われています。対象となる事業者や申請までの流れ、よくある疑問など、IT導入補助金を有効に活用する方法を紹介します。
業務の効率化や生産性アップに欠かせないDX
働き方改革や新型コロナウイルスの影響で、近年注目されているDX。業務の効率化や利益率の向上のためにはデジタル化が必要不可欠と理解していても、大掛かりな予算を割くのは難しく、何から始めていいか困っている企業も多いのではないでしょうか。実際に2021年に総務省が発表したデータを見ても、日本にある中小企業の約7割が「DXを実施していない、今後も予定なし」と回答しています。
しかし、G7各国の中で日本の「労働生産性(就業者一人あたり、あるいは就業1時間あたりの経済的な成果)」は最下位。アメリカに比べ労働生産性は6割程度にとどまり、決して高い水準とはいえません。
さらに近い将来、インボイス制度など行政サービスのデジタル化が進み、対応が必須となります。早めに業務のデジタル化に向けた準備を進めることは、間違いなく必要な対策といえるでしょう。
DX推進のための公的制度「IT導入補助金」はココが便利
日本全体の労働生産性向上、インボイス対応を見据えた企業間取引のデジタル化を推進しようと設置されたのが「IT導入補助金」です。
DXの前段階として、中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助し、業務効率化・売上アップをサポートするものです。
補助対象者は飲食、宿泊、卸・小売、運輸、医療、介護、保育等のサービス業の他、製造業や建設業等も含めた中小企業。ただし、詳細な条件もあるので、自社が当てはまるかどうか、IT導入補助金のホームページで確認しましょう。
補助対象経費はソフトウェア購入費、クラウド利用料、導入関連費、ハードウェア購入費で、申請する類型によって補助率や上限下限額が異なります。対象となるITツールは、一部のハードウェアを除き指定されたものでなければなりません。
中小企業の多くが対象となる大規模な補助金で、導入ツールも事務局によって認定されているなど申請から導入のサポートまで手厚く用意されているので、詳しい知識がない方でも申請できます。社内のデジタル化を一気に進めるいい機会になるのではないでしょうか。
ITツールの導入に欠かせない3つのポイントをチェック!
申請を進めるにあたってポイントとなる点を「3つの類型」「プロセス」「スケジュール」に分けてご紹介します。
●3つの類型を確認
IT導入補助金には「A類型」「B類型」「デジタル化基盤導入類型」の3つのパターンがあります。それぞれの特徴と違いを確認しましょう。
主な違いは導入するツールの種類と補助金額です。
○A類型とB類型
指定の業務プロセスに該当するITツールをいくつ導入するかで2つに分けられます。
1つ以上であればA類型、4つ以上であればB類型の選択が可能です。
また補助金額にも上限があるため、補助率と合わせて確認しましょう。
【自動化するプロセス一覧】
共P-01 顧客対応・販売支援
共P-02 決済・債権債務・資金回収管理
共P-03 調達・供給・在庫・物流
共P-04 会計・財務・経営
共P-05 総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス
各業種P-06 業種固有プロセス
汎用P-07 汎用・自動化・分析ツール(業種・業務が限定されないが生産性向上への寄与が認められる業務プロセスに付随しない専用のソフトウェア)
この条件を満たしていれば、その他の拡張機能、データ連携ツール、セキュリティ、導入コンサルティング、導入設定・マニュアル作成・導入研修、保守サポートの経費も補助対象となります。
○デジタル化基盤導入類型
デジタル化基盤導入類型は、先ほどのA類型B類型と異なり、補助対象のITツールが「会計・受発注・決済・EC」の機能を保有するソフトウェアに限定されます。
また、補助率と補助金の上限下限額は2つに分かれるので注意が必要です。
「会計・受発注・決済・EC」のソフトウェアを1種類以上含んでいれば、その他の拡張機能、データ連携ツール、セキュリティ、導入コンサルティング、導入設定・マニュアル作成・導入研修、保守サポート、PCタブレット・プリンター・スキャナー及びそれらの複合機器、POSレジ、モバイルPOSレジ、券売機の経費も補助対象となります。
デジタル化基盤導入類型には商工団体など複数の中小企業・事業者が連携して参加できるものもあります。補助金額やスケジュールが異なるため、詳細はホームページをご覧ください。
●申請フロー
実際に補助金を受け取るために、必要な手続きは以下の通りです。
導入後は補助事業の実施と報告書の提出を受けて、補助金が交付されます。その間、導入したITツールが適切に活用されているかサポートやアフターフォローも受けられるので、安心です。
●申請スケジュール
最終締切日はどちらも8月8日となっていますが、状況によって延長される可能性もあるため、ホームページの確認をお願いします。
導入支援事業者を選定して、専門知識がなくても手軽にDX化
補助金の申請には、まず導入するITツールとIT導入支援事業者(いずれも事務局から採択されたもののみ対象)を選ぶ必要があります。
最終申請締め切りまで時間がない中、どのように選定すべきか悩む人も多いのではないでしょうか。
IT導入補助金のホームページには、IT導入支援事業者の一覧のほか、検索機能が用意されています。業種やデジタル化したい業務プロセス、IT導入支援事業者の営業エリアなどから絞り込めるため、まずは検索してみるのがオススメです。
「何からデジタル化していいか分からない」という方は、一昨年・昨年の補助金活用事例や業種別のおすすめITツールを参考にするのもよいでしょう。業種別の業務課題から逆算して自社に必要なツールを選定することができます。また、導入した際のメリットもわかるので、経営目線で具体的な検討を進める際にも重宝します。
注目したいのが加点対象となるITツール。加点項目は申請に必須ではありませんが、満たしておくと採択されやすくなるので、積極的に導入を考えてみましょう。
加点対象となる取り組み・関連事業は以下の6点です。
① 地域未来投資促進法の地域経済索引事業計画
② 地域未来牽引企業
③ クラウドを利用したITツール導入の検討(A・B類型のみ)
④ インボイス対応ITツール導入の検討(A・B類型のみ)
⑤ 事業計画の策定と従業員への表明
⑥ 国の推進するセキュリティサービスを選定しているか
それぞれの詳しい内容はホームページをご覧ください。
https://www.it-hojo.jp/applicant/related-measures.html
特に④のインボイス対応ITツールは2023年10月からスタートする制度のため、この機会に導入を検討するのもいいでしょう。
ここだけは確認しておきたい基本Q&A
最後にIT補助金のホームページで公開されている「よくある質問」を基に、申請にあたってハードルとなる疑問と回答をまとめてみました。申請を考えている方は参考にしてみてください。
Q. 交付申請で同一の事業者は何回まで申請できますか。
A. 通常枠(A・B類型)とデジタル化導入基盤類型のそれぞれに1申請し、交付決定および補助金の交付を受けることは可能です。
法人が申請を行う場合、支社や支店・営業所単位からの個別申請は受け付けられません。
Q. 各締切り回で不採択だった場合、次回以降の締切りまでに再申請可能ですか。
A. 各締切り回で公表される採択結果にて不採択となった場合や、交付決定後に申請の取下げを行った場合でも、次回以降の締切りまでに再申請は可能です。
Q. 通常枠(A・B類型)において交付申請時の労働生産性向上の目標が未達だった場合、交付が取り消されることはありますか。
A. 基本的には、未達でも補助金の交付が取り消されることはありませんが、計画数値は達成できるよう事業を進める必要があります。
※事業を実施していないことによる目標未達の場合は、補助金の交付取り消しとなる可能性もあります。
Q. 加点項目にあるインボイス制度とは何か教えてください。
2019年10月の消費税増税に伴い軽減税率も同時に導入され、現在、2種類の税率が存在しています。そのため、政府は取引の透明性を高めつつ、「誰がいつ、何を、税率何%で、合計いくらで販売した」といった正確な経理処理ができるよう、令和5年(2023年)10月1日より適格請求書等保存方式「インボイス制度」の導入を決定しました。このインボイス制度に対応しているソフトウェアが加点対象になります。
ホームページには上記以外にもさまざまな疑問に対する回答が掲載されています。申請にあたり疑問が出てきた際は、これらをチェックし、解決しない場合はIT導入支援事業者や事務局に確認してみてください。