EC展開する食品事業者の使命。老舗食品メーカーに学ぶ「見えないお客さまの満足を高める」ための物流へのこだわりとは

EC展開する食品事業者の使命。老舗食品メーカーに学ぶ「見えないお客さまの満足を高める」ための物流へのこだわりとは

2022.11.18

久原本家グループ
1893年、福岡県糟屋郡久原村(現・久山町)で醤油醸造業として創業した総合食品メーカー。「茅乃舎」「椒房庵」「くばら」「北海道アイ」などのブランドで、醤油をはじめとした調味料やだし、明太子、鍋つゆなど、さまざまな食品を製造。店舗・ECによる直販と全国の百貨店や量販店での流通に加え、飲食事業なども展開。


 
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株式会社久原本家グループ本社 経営管理本部SCM部物流課 課長 津田 勝典さん



 

「本物」にこだわった美味しさをさまざまな形で、日本各地へ届けている久原本家グループ。商品やサービスを通して、お客さまに感動してもらうことを信念に掲げています。その実現のために「物流」は不可欠な要素です。久原本家グループがどのような想いのもと、モノをつくり、モノを届けているのか、そして今後どのような事業展開を考えているのでしょうか。「伝統と革新の融合から生まれた唯一無二の美味しさ」を支える物流の真相に迫ります。


手間と時間をかけ、お客さまとの接点を大切にすることが、大手企業との差別化となる

久原本家グループは、「本物の美味しさ」をお客さまに届けるために、どのようなマインドを持ち、どんな工夫をしているのでしょうか。

「美味しいものを食べたとき、素晴らしいものを見たとき、人は誰かに伝えたくなるもの。それは商品も同じです。つまり、『人に言いたくなる商品』を作ることが一つの目標で、そのために私たちが大切にしているのが「モノ言わぬモノにモノ言わすモノづくり」の信念です。商品は実際にはモノをいうことはありませんが、口にした人にモノを言わすような商品を作ることは可能なはず。たとえ時間がかかっても心を込めて手間をかけた本当に美味しいものを作っていきたいと考えています。そしてお客さまに「感動」していただきたい。久原本家の根底にあるのは、そういった信念です」
株式会社久原本家グループ本社 SCM部の津田さんは語ります。

 
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手間や時間をかけるというと、予算や人手に余裕がないとなかなか難しく感じるかもしれませんが、むしろ中小企業こそ大切にすべきポイントだといいます。

「私たち中小企業は、大量生産をしようにも技術や資金が足りず、大手企業にはなかなか勝てません。そこで、久原本家グループでは、大手企業がしない手間がかかることをやりきって差別化を図っています」(津田さん)

もちろん、本物にこだわるほどコストがかかり、販売価格は高くなります。一方で、直営店やECでは、価格が高い理由を理解してきちんと評価してくださる方が購入するため、ビジネスモデルとして成立できているといいます。
こうしたビジネスモデルにおいては、商品自体の質はもちろん、ブランドとお客さまとの接点も重要です。店舗であれば店構えや接客など、ECであれば注文してから手元に届き、商品を開封する瞬間までも意識したサービスが重要になってくるでしょう。

 
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茅乃舎 コレド室町日本橋店



お客さまの手元に届くまでの満足度も向上させる、安定した物流と梱包へのこだわり

久原本家グループの商品は、本物を追求するうえで、無添加・鮮度・風味を大切にした商品が多くあります。冷蔵・冷凍商品が多いため、適切な温度帯を保ち安定した物流網でお客さまにお届けすることがポイントとなります。

「最近では発送後翌日お届けエリアを拡大するため、運送会社のロジセンター内に、ECなどの発送拠点を7ヵ所構えました。センターからお客さまへの近距離配送により、お届けのリードタイムや物流事故防止など、物流品質を担保しています」

拠点の増加に伴いコスト上昇の懸念もあったといいますが、運送会社との綿密な打ち合わせによって、コストを抑えられているといいます。例えば、拠点によっては小さな商品だけを扱うところもある一方、さまざまな種類の商品を一挙に扱うために煩雑な作業をともなう拠点もあります。そこで拠点ごとの立地や出荷能力などを考慮したうえで、人や設備、扱う商品などの設計を最適に見直したそうです。

また、商品の見た目もお客さまの満足度につながることから、久原本家の商品はパッケージにもこだわっているといいます。中には、和紙のような手触りの特殊な紙を使用したものもあります。ただし、冷蔵・冷凍の際に生じる結露や霜で濡れて、見た目を損なうおそれがあることから、新商品発売前には入念に物流テストを行なっているそうです

お客さまが組み合わせて購入しそうなパターンを想像して梱包し、実際の物流に乗せて検証するんです。そこで問題があれば、実際の配送では同梱しないようにしています。同時に注文があった場合は、別々に配送するようにしているんです」(津田さん)

過去には、瓶詰めの商品で配送途中に割れやすいものがあり、どうしたら安全な梱包ができるのか、運送会社の協力をもとに検証を行ったこともあるとのこと。「瓶は横向きに入れるより縦向きに入れたほうが割れにくい」といった細かなノウハウも教えてもらい、配送に使う箱は商品を縦向きで入れられる仕様に変更することも進めているといいます。

「瓶の梱包の検証を行った際、運送会社さんの検査施設を使わせていただきました。梱包した商品をさまざまな角度・高さで落下させて、さらに梱包の条件を少し変えてまた落下させて・・・。丸一日時間をかけて、安全にお届けできる梱包を模索しました」(津田さん)

 
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できる限り、万全を期して商品をお客さまに届けている久原本家グループ。それでも万が一、配送トラブルが発生した場合は、運送会社からの連絡を受け、場合によっては社員が直接お客さまに代品をお届けすることもあるのだそうです。

「本来は私たちがお客さまの元へ商品をお届けするべきところ、運送会社さんに委託しているだけだと思っています。そう考えると、配送トラブルでお客さまの期待を裏切ってしまったのは私たちの責任ですよね。期待を裏切ってしまったら、それを超える形で挽回しなくてはいけないと思っています。そうすることで、信頼や次の期待感にもつながります」(津田さん)



恩返しからはじまった大規模拠点の新設が、理想の物流を実現し、商品とサービスの品質を向上させる

久原本家グループは創業から130年ほど経ってなお、本物を追求し続けています。その一環として、2022年6月に北海道恵庭市に新工場を新設しました。

「実は、福岡に拠点を置く久原本家グループは北海道と30年以上のつながりがあります。『椒房庵』のブランドで製造・販売する博多名物“からし明太子”の原料として、上質な北海道のスケトウダラの卵を使用しているのです。長いつながりに対する感謝の思いを形にするべく、2019年8月に株式会社 北海道アイを設立し、2022年6月に北海道恵庭市に工場を新設しました」

 
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これを機に、チャネル・商品ごとのサプライチェーンを統合し、福岡と北海道から全国に向けたサプライチェーンの最適化を目指しています。具体的には、チャネル間の在庫を流動化させた各拠点・店舗へのタイムリーな物流体制の構築。そして、商品や原料、資材の在庫の一元管理に取り組んでいます。

「運送会社さんの協力もあって、北海道工場の入出庫業務はかなり効率的な状態からスタートできています。最新設備による省人化も実現できていて、既存商品の生産体制を整えている最中です。今後、北海道アイを含め、新規ブランドの商品開発も進めていきます」(津田さん)

さらに、運送会社のネットワークを活用して、福岡と北海道の工場で使用する原材料調達についても最適化を図ります。

「九州の醤油は独特な風味を持っています。九州と同じ味を北海道で作るとなると、九州から北海道へ醤油を運ばなければなりません。いまは、パートナー企業さんから北海道の工場に送ってもらっていますが、今後は一ヵ所に集めた九州の醤油を幹線物流を活用して一気に北海道へ運ぶなど、効率化を進めていきたいと思っています」(津田さん)
 
北海道への恩返しからはじまった福岡・北海道の2拠点体制ですが、これを契機に物流最適化がさらなる“本物の追求”を可能にして、より高品質な商品とサービスをお客さまに提供できるようになります。


商品開発や製造過程で手間と時間をかけること。そして、素早く、安全にお届けする梱包や物流環境を整えること。こうした「お客さまに感動していただく」という久原本家グループの姿勢は、中小企業の理想形の一つといえるのではないでしょうか。



発見POINT

  • 複数の発送拠点でリードタイムを短縮し鮮度をキープ。拠点ごとの特色や条件を踏まえて設計を最適化

    発送拠点を複数構えることができれば、リードタイムを短縮できるため、お客さまにとって直接的なメリットとなります。また、鮮度が重要な食品においては、品質担保の面でも信頼性が増すでしょう。もちろん、複数の発送拠点を持つにはコストがかかりますが、拠点の立地や規模、処理能力などを考慮して設備投資や取り扱い商品を最適化することでコストを抑えることができます。

  • 入念な物流テストで、お客さまとの接点である商品開封時の満足度を担保

    届いた商品を開封する瞬間は、ECにおいて、お客さまとの重要な接点です。梱包の状態が良ければ好印象となり次の注文につながる可能性がありますし、反対に商品が破損していれば信頼を損なうことになります。 しかし、大きな問題がない限りはお客さまの手元に届いた状態を発送側が把握する機会は少ないでしょう。そういった場合は、お客さまが同時に注文されることが多い商品の組み合わせで梱包し、実際の物流に乗せてテストを行うと良いでしょう。場合によっては、運送会社に相談してノウハウを共有してもらうのも有効です。

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