少人数でも安定的な農業ECを実現するために、農業DXで描く未来像とは

少人数でも安定的な農業ECを実現するために、農業DXで描く未来像とは

2022.03.22

おかやまおひさまファーム
2017年より、岡山県で開発された純国産バナナ栽培事業をスタート。わずか4人のスタッフと、就労継続支援B型事業所との協業で、EC、地元での販売、飲食店への提供、岡山の地場産業を巻き込んだマルシェ活動等、多岐にわたる販売を展開。主力商品の「おかやまバナナ」は海外産が占める市場より高い販売価格ながら、ECを通じて全国から注文が入る。

岡山県に農園を構え、純国産バナナを生産・販売するおかやまおひさまファームは、創業時より産地直送のEC事業に取り組む、新進気鋭の農家です。代表と数名のスタッフという少人数体制でありながら、農作物の生産・収穫・出荷から、EC運営まで幅広い業務をこなしていくために同社が力を入れて取り組んでいるのが、アナログ作業のデジタル化。デジタル化を進める中での課題やノウハウをまとめました。

少人数スタッフで収穫・発送・EC運営まで実施する

岡山県にて純国産バナナの生産・販売を行うおかやまおひさまファーム。同社は斎藤千恵子代表とパートスタッフ数名、さらに収穫担当として就労継続支援B型事業所(※)のスタッフ6名/日という少人数な体制ながら、収穫、発送、さらにはEC運営までも自社で行い、全国的に販路を拡大しています。
※「就労継続支援B型事業」とは、通常の事業所での雇用が困難とされ、雇用契約に基づく就労が困難な方に対して、就労の機会提供と、生産活動の機会提供、その他の就労に必要な知識および能力向上のために必要な訓練・支援を行う事業のこと。

農作物というナイーブな商材を扱いつつ、同時にECを通じたきめ細やかなお客さま対応を両立する同社代表の斎藤さんが目指すのは、「誰が休んでも大丈夫」な体制構築です。

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「当社では、特定のスタッフに依存しない体制を構築するために、GAP(※)の取得に向けて動き出しました。今年秋の取得を目指し、今はすべての工程・業務の棚卸をしながら、その一つひとつをマニュアル化してデータにまとめています。生産工程を事細かに記録していくGAPは、私たちスタッフ一人ひとりがすべきことを明確にしてくれるのはもちろんですが、GAP農産物であるということが一つのブランドにもなるため、例え小規模農家であっても積極的に取り組んでいく必要があると考えています」
※「Good Agricultural Practices(農業生産工程管理)」とは、農業における食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するため、生産工程を管理する取り組みのこと。今後、多くの農業者が取り組むことで、農業の持続可能性を確保し、国内外における競争力の強化、生産物の品質の向上、農業経営の改善・効率化を実現するとともに、消費者への信頼の確保などの効果が期待されている。

斎藤さんは、古くからある農家などは、それぞれの勘に頼ってしまっている部分が少なくなく、それはそれで才能であり、素晴らしいスキルではあるものの、持続性や対応力の面で不安が残ると話します。

少子高齢化による働き手の不足や、異常気象による予想外の気候、さらには近年のコロナ禍のような突発的なトラブルなど、農業を営む上で考慮しなければならない要素は数多くあります。それらに対応し、不測の事態が起きても乗り越えられるようにするための一つの方法として、GAPへの取り組みがあると考えているのです。

「GAP取得に合わせて、単なる生産工程だけでなく、例えば腐ってしまった農作物はどのように処理するかといったものや、事務所から排出されたゴミはどうするのか、といったことまでマニュアル化を進めています。こうして細かな部分を含むすべての作業がマニュアル化されていれば、仮に誰かが突発的に休むことになっても、他の人で十分に作業を回すことができるようになり、事業が滞る心配がありません。そうなれば、会社として利益を上げやすくなるのはもちろんですが、お客さまに対してご迷惑をおかけしてしまうような事態を避けられるのが大きなメリットになりますね」

バナナの安定出荷のためにデジタル化を進める

おかやまおひさまファームの主力商品である純国産バナナは、温室栽培によって年中販売できるためECとの親和性が高いのが特徴です。しかしその一方で、出荷調整や季節・温度による配送の手間は、お客さま満足を考えれば避けられないものだと言います。

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「かつては普通宅急便で配送することが多かったのですが、一度、冬場に北海道へ発送した際、お客さまに届くまでの輸送中の低温下で凍結してしまい、冷凍バナナの状態で届いてしまったことがあります。それ以来、寒いエリアに発送する場合や、最新の気象情報は随時チェックして、寒波が来るというような情報があった場合は、温度管理の厳重なクール便で送るようにしています。また自社ECから注文があった場合はお客さまと直接やりとりができるので、送料は上がってしまうもののすぐに送れるクール便を使うか、配送の時期をずらすか、お客さまと相談することも。農作物という生きた商品を扱いつつ、さらに人対人で取引をするからこそ、どうしてもアナログに頼らざるを得ない部分はあるんです」

同時に、アナログな部分をゼロにするのが難しい業界だからこそ、できる部分からデジタル化していくべきと語ります。

「今後のデジタル化の施策の一つとして、農業特化型SaaS(※)の導入を検討しています。まずはそこまで難しい機能は使わず、農業日誌のような使い方がしたいですね。いつどんな肥料をあげたのか、今日は何本収穫できたのか、といったデータを貯めていくことができれば、より具体的な生産計画が立てられるようになり、無駄を省くことができると思います。また現在はクラウド上でタイムリーに情報共有ができるデジタルツールを使ってシフトを組んだり、チャットツールを使って販売・決済・発送のオペレーションを迅速に管理したりしていますが、これらもSaaSを通じて一元化できるようになると便利ですね。農業では、夏場と冬場で働き方が大きく変わることも多いので、そうした変則的な働き方をデジタル管理できるようになれば、バックオフィスの負担は大きく軽減されるはずです」
※「Software as a Service」の略称で、提供者側で稼働しているソフトウェアを、利用者がインターネットを介して利用するサービス。

SaaSをはじめとしたクラウドサービスは、先進的で難しいと思われがちですが、自分のやりたいことや実現したいことを明確にし、それを満たす機能を厳選して使えば、操作は決して複雑なものではありません。まずはやってみようという意思こそが、最も大切な要素と言えるでしょう。

「将来的には、農園のビニールシートの巻き上げや水やりの自動化、さらにセキュリティ及び生育状況把握のための監視カメラ設置などをやっていきたいと思っています

 
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小規模事業者こそ決済・発送などのデジタル化を

斎藤さん曰く、家族経営の農家では、デジタル化をはじめとした設備投資に使うお金があるのであれば、その分苗を買った方が利益につながる、と考える方も多いそうです。

「確かに苗を買えば、それが売上に直結するのはわかります。しかし、実は農家の中にはバックオフィス業務に多大な労力が割かれてしまっており、そこを改善すれば栽培に割ける時間が増え、結果的により大きな売上の実現につながるケースもあるはずです。ある農家では、見積書と納品書と請求書を、それぞれ手書きで書いていると言います。しかしデジタル化を進めれば、各種書類を都度作成する手間がなくなります。栽培から収穫、出荷まで、すべてを自分の手でやらなければならない小規模農家こそ、デジタル化によって得られる恩恵は大きいのではないでしょうか

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一昔前であれば、デジタル化を進めるためには高額な農業特化ソフトを購入し、それを毎年アップデートしながら使っていく必要がありましたが、低価格で定額制のクラウドサービスが登場したことで、安い料金で、使いたい機能だけ使うということもできるようになっています。

「例えば、当社では高齢者のお客さまも多い分、電話での問い合わせや注文も多くなり、そういった人が対応せざるを得ない部分では、ヒューマンエラーは起こりやすくなります。その分、EC経由の注文商品発送時などは、極力人の作業がいらないようなサービスを選択することで、ヒューマンエラー撲滅に取り組み、作業負荷としての効率化も追求しています。人が実施しなければならないことは、一つひとつの作業をマニュアル化して見直し、デジタル化やクラウドサービスの導入で解決できるところは解決していく。そうして空いた時間や手を使って、ECの拡大やより良い商品の開発に取り組んでいけるとうれしいですね

近年のEC開業サービスでは、電話注文をECと合わせて管理できる「代理注文機能」、受注入力、出荷・請求・入金、顧客管理・販売分析、販売促進処理の一元管理といった、EC事業者や農産物直売事業者がデジタル化に取り組みたいと思ったとき、手助けをしてくれる機能が充実し始めています。斎藤さんも前述のように自社の課題と現場のリアルな実情を把握した上で、将来的なデジタル化を見据えています。その上で「『難しそうだからできない』ではなく、まずはそういった便利なサービスが存在することを『知る』ことが、私たちには大事だと思います」と語っていました。
デジタル化によって大きく変化する可能性を秘めた農業。おかやまおひさまファームは、これからもさまざまな取り組みに積極的に挑戦していくことで、農業のデジタル化への道を切り拓いていってくれることでしょう。

発見POINT

  • 強固な生産体制を構築するためにマニュアル化を推進

    ECなどの販路で安定的に商品を供給するためには、さまざまな不測の事態にも対応できる生産体制が必要不可欠です。生産工程や腐敗した農産物・ゴミの処理方法、トラブルの対処方法、ECの対応方法などを一つひとつマニュアル化することで、誰もが均一な作業を行える体制を構築できます。強固な生産体制を構築できれば、安定的な利益の創出はもちろん、消費者満足度の向上も達成できるでしょう。

  • デジタル化の恩恵は人件費削減だけではない

    農家の業務は農作物を生産するだけでなく、請求書の作成や商品の発送手配など、バックオフィス業務も膨大に存在します。クラウドサービスや農業特化型SaaSなどのサービスを導入し、業務をデジタル化すれば、効率化したリソースを農作物の生産・栽培やEC事業の取り組みなどに注力することも可能です。また、ヒューマンエラーを減少させることで、修正コストの削減や信頼感醸成にもつながります。すぐに導入することができないとしても、まずは自社のアナログ作業の課題を抽出し、適合するサービスを知り、導入時のメリットを検討することは、すぐにできるはずです。

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