新しい働き方に求められる機密文書の管理とリスクマネジメントとは?

新しい働き方に求められる機密文書の管理とリスクマネジメントとは?

2022.02.21

新型コロナウイルス感染症の流行以降、自宅や外出先、移動中など、オフィスにとらわれないワークスタイルが浸透してきたことで、直行直帰でパソコンを持ち歩いたり、文書をクラウドで管理したり、重要書類を自宅で管理したりと、社外に機密情報・文書を持ち出す機会が増えてきています。

そんな中で、特に気をつけなければならないのが、機密情報・文書を社外に持ち出すことによる“情報漏洩”。新しい働き方が浸透してきた現在、私たちは、どのように機密情報・文書を扱い、情報漏洩のリスクを回避していくべきなのか、今一度考え、行動を正していく必要があります。

そこで今回は、保険業界からファイナンシャルリバティ株式会社の石井康夫さん、 ITコンサル業界から株式会社パワーインタラクティブの砂智久さん、そしてヤマト運輸株式会社で法務を担当する石井勇策さんという普段から機密情報・文書を取り扱うことが多い3名をお迎えし、アフターコロナ(ウイズコロナ)時代の働き方や機密情報の取り扱い方に関する座談会を開催。新しい働き方の陰に潜む情報漏洩リスクとリスクマネジメントの方法について語り合っていただきました。
出演者
石井康夫さん(ファイナンシャルリバティ株式会社・コンサルティング事業部・部長)
砂智久さん(株式会社パワーインタラクティブ・執行役員)
石井勇策さん(ヤマト運輸株式会社・法務部・マネージャー・弁護士)


コロナ禍と新しい働き方の浸透。デジタル導入しても完全なリモート化・ペーパーレス化は難しい!?



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石井康夫さん(ファイナンシャルリバティ株式会社・コンサルティング事業部・部長)


――新しい働き方の浸透によって、業態や規模を問わず、多くの企業のビジネスパーソンが働き方の変革に直面したと思います。まずは、皆さんの環境がどのように変化したのか教えてください。

石井康夫さん:
保険業界では、顧客や社内スタッフに直接会って打ち合わせをする働き方がスタンダードでしたが、その当たり前も変わってきたと感じています。当社の話で言えば、2020年に発出された1度目の緊急事態宣言の際に積極的にオンラインツールを導入しましたし、それによって対面に依らずビジネスを進められるように環境が整備されました。とは言え、働く場所は個々の判断に委ねている側面もあり、完全にオフィスに縛られない働き方が浸透したかといえば、そうとは言えない部分もあります。私自身も、幼い子どもがおり自宅での業務が困難なため、出社することは多いですからね。

砂智久さん:
当社は2020年の3月から全面的にリモートワークにシフトしたのですが、顧客企業側がリモートワークを推進していたこともあり、スムーズなデジタル化推進ができたと思います。得意先と自宅を直行直帰で往復する従業員も多いです。リモートワーク主体に切り替わって感じているのは、朝礼や研修、面談など社内のコミュニケーションはオンラインが適切なのですが、商談や提案など相手の表情や関係性が重視されるものは、やはり対面が好ましいということです。その相反する事実にどう対応していくかは、これからの検討事項と言えるかもしれません。

石井勇策さん:
リモート化を始動してから約2年、ライフスタイルやコミュニケーションに配慮しながら、新しい働き方を実践してきたようですが、お二人自身、またはお二人がご活躍する業界では、オフィスに縛られない働き方で重要になる“ペーパーレス化” については、どの程度進んでいますか?

石井康夫さん:
保険業界では、紙の書類を必要とせず、オンラインで完結できる契約書類が増えてきました。一方で、サービス内容をご案内する顧客向けのパンフレット、概要を記した法定書類など、「書面で」お渡しすることが法律上の義務になっている書類もまだあります。また、それ以外の文書でも、データでお渡しするだけでなく、「書面で」お渡しした方が確認しやすいというご要望をいただくこともあります。そのため完全なデジタル化が難しく、ペーパーレス化がなかなか進んでいないというのが実情です。

砂智久さん:
当社では、企画書や報告書など、顧客との仕事で使用する書類はデジタル化していますが、捺印が必要な請求書や契約書はペーパーレスが進んでおらず、経理担当者がそのために出社していることが課題になっています。

石井勇策さん:
確かに、完全なペーパーレス化を実現するためには、多くの障壁が存在しますよね。大切な契約は紙で取り交わしたいという文化もありますし、業界によって慣習も異なります。印刷や郵送だけでなく、保管方法に悩む会社も多いのではないでしょうか。また、法務の視点でお話しすると、 DXや法改正への対応が先行するあまり、情報漏洩リスクに対するルールづくりが追いついていないケースも見られます。総じて、電子書類と紙の書類、両方を管理しなければならないのが、現在の日本企業における共通課題だと言えます。

ーーリモートワークをはじめとしたオフィスに縛られない働き方や、ペーパーレス化の浸透によるオンライン完結の契約書類が増えてきた実感はありますが、現場に目を向けると、働く場所が個々の判断に委ねられている側面が強かったり、得意先や顧客の要望で紙が必要になるケースが多かったりと、デジタルが導入されても完全なリモート化やペーパーレス化は、まだ実現できていないようですね。紙と電子、双方の書類で管理しなければならない状態が続いていることは、新しい働き方、働きやすい環境の実現を考えると課題と言えるかもしれません。

自宅に「持ち帰らない」「保管しない」が原則の機密文書。情報漏洩対策としてルールづくりが必要

 
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砂智久さん(株式会社パワーインタラクティブ・執行役員)


――では実際に、書類の管理方法が変わることで、どのような問題が生じるのでしょうか。

石井康夫さん:
情報漏洩のリスクが高まってしまうことですね。例えば、保険業界には、設計書のように顧客の個人情報が含まれる書類が多数あります。この管理が徹底されていないと、郵送における送付先の誤りなどで情報漏洩が生じてしまいます。当社ではこのようなトラブルを経験したことはありませんが、コロナ禍で郵送そのものが増えているので、そのリスクは高まっていると言えます。メールでの送付でも同様の問題は潜んでいるため、デジタル化だけで解決されるものではないでしょう。実際に私も、ファイル共有サービスのURLを間違えて貼り付け、誤送ギリギリのところで気づいたことがあります。慣れない作業ほど注意が必要と感じています。

砂智久さん:
確かに、紙で運用している機密性の高い文書は、情報漏洩のリスクは高いですよね。当社では、ペーパーレスを目指しているものの、「紙を使用してはいけない」というルールを定めているわけではありません。取引先から紙の書類を渡されてしまう場合もありますし、デジタル化された書類を、各担当者が作業プロセスによって“ペーパー化”していることもあります。実際に私も、請求書などの校正作業はモニターだと正確に行えないため、自宅でプリントアウトすることがあります。この一つ一つにそのリスクがついて回ると考えると、常に慎重に紙の情報を取り扱わなければならなくなっていると感じますね。

ーープリンタが自宅にない場合は、コンビニのコピー機で出力するケースも考えられますよね。トレイに忘れてったりすると、情報漏洩リスクにつながります。

砂智久さん:
紛失リスクでいうと、電車内や飲食店への置き忘れもシビアです。これは以前からあった課題ですが、直行直帰が増え、鞄にパソコンや社用携帯、書類を入れるケースが多くなったことで、より確率が高まっていると感じます。自宅での書類保管も、家族の閲覧や、空き巣による盗難など、リスクが無いわけではありません。デジタル化も同様で、自宅のネットワークのセキュリティなどが重要になります。当社は顧客の商材・マーケティングの情報を扱うので、漏洩は会社の存続に関わる問題。その辺りの対策は、しっかりと考えていかなければなりません。
法務のご担当者の視点からして、こういった現状はどのように映っていらっしゃいますか?

石井勇策さん:
パソコンや書類を自宅に持ち帰ることが定着しましたが、そもそも会社側がそれを許容していることが、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当しなくなるリスクを発生させます。また、取引先との秘密保持契約に反する可能性もあるので、細心の注意が必要でしょうね。とはいえ全面禁止が現実的でない会社がほとんどであるため、持ち帰る際のルールづくりが必要になるでしょう。この辺りの問題は、現在、各企業が模索しているフェーズなのだと思います。

石井康夫さん:
紙の書類の場合は、廃棄の問題もありますね。コロナ前はオフィスのシュレッダーで毎日処理できましたが、リモート化で出勤数が減ると、廃棄する習慣を忘れがちになります。当社はシュレッダーが1台しかないため、故障などで廃棄が遅れる問題もあります。

砂智久さん:
廃棄された際に証明書が発行される、機密文書の廃棄サービスがありますが、外部業者の場合はどうしても、「ある程度溜まってから回収してもらおう」と考えてしまいます。すると、書類が溜まる期間が長くなってしまいますね。やはりシュレッダーで毎日処理した方が良いのでしょうか?

石井勇策さん:
万が一漏洩があった場合、裁判所では「会社として過失があったか」ということが問われます。こうした考えからすると、業務品質の良い回収業者に発注し、証明書などを残しておくことは有効でしょう。シュレッダーは「置いているだけ」とも受け取られるので、注意義務を尽くしていることの根拠としては弱いと言えますので。

石井康夫さん:
しかし、自分のシュレッダーを持っていない従業員もほとんどです。自宅での書類廃棄も課題になるのではないでしょうか?

石井勇策さん:
インサイダー情報などの場合、家族の閲覧であっても重要な問題になり得るため、やはり書類を自宅に「持ち帰らない」「保管しない」ことは原則だと言えます。そのため、従業員が自宅にシュレッダーを置くことは、抜本的な解決にはならないんです。そのような課題への対処としては、書類ファイルの消去が容易で、ローカル環境にデータが残るリスクも少なく、操作履歴も残せる、デジタルによる情報管理(オンライン保存による管理)をお勧めします。しかしそれでも対応しきれない場合は、自宅での回収サービスも選択肢の一つになるでしょう。

ーーオフィスに縛られない働き方が増えてきたことで、「情報漏洩のリスク」が確実に高まっているということがわかりました。機密情報を含む書類やパソコンは、原則として社外に持ち出してはいけないもの。だからこそ、書類をデジタル化してオンライン上に保管&手元に残る紙の書類は回収サービスなどで確実に破棄するなど、社外で機密情報・文書を取り扱う際のルールをつくり、従業員全員がそれを理解し、しっかりと運用していくこと、リスクヘッジの手段を持っておくことは非常に重要だと言えますし、その対策が急務であることも理解できました。


これからの時代に重要なリスクマネジメントは、ルールや運用方法の「明確化」と「共有」

 
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石井勇策さん(ヤマト運輸株式会社・法務部・マネージャー・弁護士)


――機密情報の管理は、万全な対策が求められる一方で、実務の観点からはリスクゼロが困難であるとも言えると思います。今後、新しい働き方とリスクマネジメントをどのように両立させていくべきなのでしょうか。

石井康夫さん:
情報の取り扱いを見直すべき時期ですが、ビジネスは個々の担当者の裁量に依存する部分も多い。一つ一つのプロセスに対してルールを細分化することは、現実的でないことも事実です。だからこそ、まずはリスクや優先課題といった“大きな方向性”を全社的に共有することが重要なのではないでしょうか。方向性がわかることで、現場でも個々のケースを見直しやすくなります。当社にとっては“顧客に信用されること”が最優先であるので、トラブルを防止することはもちろん、プロセスを徹底することで安心も積み上げるべきなのだと感じます。

砂智久さん:
リスクの高い紙の書類を減らすためには、従業員がデジタル化しやすい環境を整えることが重要です。従来はオフィスに行けば、ファイルボックスへの提出や押印による確認など、物理的な書類管理が可能でした。しかし今後はオフィスを減らしていく時代です。収集、配布、承認、発送、保管、廃棄などのフローを、少しずつでもデジタル化しなければならないでしょう。このようにすることで、紛失や漏洩のリスクも減らしていけると思います。

石井勇策さん:
若いスタッフさんはデジタル化を好むかもしれませんが、紙での業務を好むスタッフもまだまだ多数いると思います。業務効率の観点から、紙の使用を従業員の判断に委ねることも必要でしょう。その際にポイントになるのは、ルールの明確化です。機密情報漏洩リスクを下げるだけでなく、もしもトラブルが発生した場合に、「それは会社としての過失にあたるか」という観点も加味して考えなければなりません。

石井康夫さん:
リスク対策は重要課題であるものの、業務としては後回しになりがちな領域です。改めて起こりうる可能性を洗い出し、証明や履歴によってトラブルを見据えた管理も進めていく必要性を感じました。今日の話を会社に持ち帰り、もう一度情報漏洩リスクを見直したいと思います。

砂智久さん:
自由な働き方を実現するためにも、顧客企業のやり方に合わせるためにも、デジタル化推進は必須です。しかし紙がゼロになる日は、まだまだ遠いと思います。リスクの高い機密文書については、紙とデジタル両方で、マネジメント体制を強化することが求められていくのでしょう。

ーー情報漏洩のリスクを減らすためにも、「今すぐ情報の取り扱いを見直すべき」と言えそうですね。お話を総括すると、これからの時代の情報に対するリスクマネジメントは、「漏洩が生じないこと」と「仮に漏洩が生じた際に、管理義務を果たしていること」の2軸で考えることがポイントになりそうです。そのためのリスクヘッジとして、ルールや運用方法の「明確化」と「共有」を進め、デジタルの活用や運用方法も含めて各プロセスを見直し、最適な形に改善していく必要がありそうです。

コロナ禍が収束しても定着しつづけると予想される、“場所に捉われない働き方”。一方で、情報漏洩のリスクへの対策は、ガバナンスが求められる現代の中で、各社が強化を迫られています。紙の書類を減らすだけでは解消されないため、DX時代も向き合い続けることになるでしょう。担当者の働きやすさやライフスタイルを尊重しながら、管理者がリスクマネジメントをしていくためには、ルールを整備し、浸透させていくことが重要です。

多様な働き方が浸透した現在は、人と一緒に情報も動き回る時代とも言え、人がいる場所、人が手を動かす業務、すべてに情報漏洩のリスクが存在しており、個人情報や営業情報などの機密情報は、いつどこから漏洩してしまうかわかりません。そんな情報漏洩のリスクが格段に高まっている時代であるからこそ、私たちは機密情報・文書の取り扱いに危機感を持って、万全の準備と対応をしていく必要があります。
機密情報が漏洩してからでは、すでに手遅れ。そうなる前に、今すぐ情報漏洩のリスクマネジメントに着手し、安全・安全を確保できるようにしなくてはならない時代になっているのです。

発見POINT

  • 新しい働き方に潜む情報漏洩へのリスク。早急な対策を求められる時代になっている

    生産性や従業員満足度の向上のためには、リモートワークをはじめとした時代のニーズに即した柔軟な働き方を許容することは不可欠と言えます。一方で社外に個人情報や営業情報などの機密情報を持ち出すことによって、情報漏洩のリスクが格段に高まっていることも事実で、私たちは、その取り扱い方に危機感を持って、トラブルが起きない、トラブルを起こさない、環境を整備しておく必要があります。新しいワークスタイルの実現と機密情報管理は、常に両輪で推進していく必要があります。まずは、情報漏洩のリスクヘッジとして、早急にルールや運用方法の「明確化」と「共有」を進めると同時に、デジタルの活用や運用方法も含めた各プロセスの見直しを行い、情報の取り扱い方を最適化していかなければなりません。

  • 自社・自身を守る運用ルールの徹底、デジタル管理、証明書発行…改善は今すぐに

    情報漏洩は、いつどこで起こるかわからないもの。そのためリスク対策は、今この瞬間から始めるのがベストと言えます。これからの時代の情報に対するリスクマネジメントは、「漏洩が生じないこと」と「漏洩が生じた際に、管理義務を果たしていること」の2軸で考えていく必要があります。気をつけていたとしても思わぬところから情報漏洩が起こってしまうこともあるため、着手段階から有事を考慮した準備を進めるべきでしょう。「ルールの明確化」や「デジタル化による履歴管理」、社外に持ち出した文書が不要になった場合の「確実な破棄方法の確立」や「証明書」の発行といった、自社や自分の身を守ることにもつながる情報の管理方法やリスクマネジメントの確立を急ぎ、安全・安全を確保できるようにしましょう。

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