物流コストを低減する「デザイン・フォー・ロジスティクス」な梱包・パッケージの見直し

物流コストを低減する「デザイン・フォー・ロジスティクス」な梱包・パッケージの見直し

2022.01.07


サプライチェーン全体の徹底した最適化が求められている昨今、かねてから課題とされていた「物流の標準化」も、生産性向上の大きなポイントとして注目を集めています。今回は、その物流の標準化の、実は大きな鍵となる「梱包・パッケージ」の改善について考えていきましょう。梱包・パッケージがなぜ物流の標準化の鍵となるのか、梱包・パッケージを改善することでどのような効果が生まれるのか、流通経済大学流通情報学部の先生方にお話を伺いました。
本文中では工業梱包=梱包、商業梱包=パッケージ として定義しています。

 

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ロジスティクスに適した商品設計・外装設計が、物流コストを低減させる

——「物流の生産性向上のために梱包・パッケージを見直す」とは、どういうことなのでしょうか。

矢野先生:
従来、メーカーの商品開発は、生産部門や商品企画部門が主導し、後工程である物流のことは意識されずに行われてきました。その結果、梱包用段ボール箱のサイズが商品ごとに異なっていたり、商品保護のために過大な梱包・パッケージになったり、それによって包装を行う梱包作業が負担になっていたりと、物流段階でさまざまなムダが生じていました。

 

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そこで、「物流の効率化を念頭に置いて商品の企画・開発をしていく必要があるのではないか」という考え方が、企業の中からも出てくるようになりました。
その具体策の一つが、商品の梱包・パッケージを「コンパクト化」していくという流れです。例えば、液晶テレビは、以前はとても厚みのある段ボール箱で梱包されていましたが、テレビのスタンドを取り外せるようにしたり、スタンドの接続部分を折り曲げられるようにしたりすることで、段ボール箱の厚みを半分以下にすることができ、運送の効率が飛躍的に向上しました。

もう一つの流れが、梱包・パッケージを「標準化」させていこうという取り組みです。例えばミカンの段ボール箱を調査した際、大手段ボールメーカーでは、全国で400種類以上のサイズの段ボール箱が使われていることが分かりました。そうしたサイズも形状もバラバラな状態の外装を標準化させ、さらにパレットも標準化させることで、パレット・トラックへの積載効率、荷役作業、保管効率など、さまざまな面で物流の効率化を図ることができます。

この「ロジスティクスに適した商品設計、外装設計をしていきましょう」という考え方が「デザイン・フォー・ロジスティクス」であり、梱包・パッケージの見直しを通じた物流の生産性を向上させる取り組みだと言えます。

 

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【標準化とは】物流標準化の現状(国土交通省)



味水先生:
デザイン・フォー・ロジスティクスの観点からの梱包・パッケージの見直しは、事業会社にとって物流コストの低減に直結します。
例えば、梱包の一番大事な役割は商品の保護ですが、保護性・安全性だけを考えている企業の場合、少しの仕様変更で商品のサイズが変わると段ボール箱のサイズも変わり、その結果1台のトラックで運べる商品の数が減ってしまうというようなケースも珍しくありません。

それに対し、保護性・安全性に加え、あらかじめパレット・トラックのサイズを勘案して商品や梱包・パッケージのサイズを工夫している企業は、効率良く積載して物流コストを下げることができています。

大手小売企業による「梱包・パッケージの標準化」の成功事例

——中小規模の事業会社にも参考になるような、梱包・パッケージの見直しで成功している事例を教えてください。

味水先生:
大手小売企業と取引先メーカー、卸売事業者が協力して「段ボール箱の標準化」に取り組んだ事例が、大変参考になると思います。

この大手小売企業は、商品をパレットに積載する際に生じるムダなスペースを最小化し、倉庫保管効率、車両積載効率を向上させることができないかと考えました。そして、まず段ボール箱の標準化の基準を設定し、「標準パレットT11に対し面積率(段ボール箱が占める面積の割合)が80%以上」という目標を掲げました。新商品の開発や商品リニューアルの際は、この目標が達成できるまで改善を繰り返し行います。例えば、ある商品の場合、段ボール箱の短辺を0.5cm、長辺を1.0cm削る工夫を凝らしたことで、1パレットに載せる段ボール箱の数を10から12に増やすことができ、面積率も80%以下だったものが約90%へと改善しました。

 

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段ボール箱の標準化による面積率の改善(国土交通省)



さらに、標準化された段ボール箱に商品を詰める際に生じるムダなスペースも削減しようと、さまざまな商品のパッケージの工夫にも取り組んでいます。このときの改善は、積載効率や輸送効率だけでなく、陳列棚に並べるときの見せ方も考慮し、縦型のパッケージにするか横型のパッケージにするのかまで掘り下げて、商品のサイズ・形状の決定にまで及んでいます。結果的に、物流の効率を改善するために始めた取り組みの効果が、商品の保管、品出し、さらには販売における利便性や作業効率の向上にまで波及するのです。

 

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そして、段ボール箱の標準化による物流コストの削減の取り組みを定着、継続させるため、「面積率80%以上の商品を、全取り扱い商品の80%以上にする」という目標も設定し、年1回、商品全般の梱包・パッケージを調査して、問題点の把握に努めています。

この大手小売企業の取り組みが成功したポイントは、①経営陣がスペースのムダを無くそうという、課題解決に向けた高い意識を持っていたこと、②改善に向けた具体的な目標数値を設定したこと、にあると思います。

矢野先生:
この大手小売企業は、取引先を巻き込み、包装の標準化を極めて上手に活用しているケースです。

他にも、業界単位で標準化に取り組み、物流コストの削減を目指しているケースもあります。
例えば、アパレル業界では、2017年に、トラックの内寸に合わせて段ボール箱の規格を2種類、各8サイズに標準化しました。
また、紙加工品のパレット積載率向上に向け、現在、メーカー、卸・小売事業者などが参画して段ボール箱サイズの見直し、標準化に向けての検討が進んでいます。加工食品分野においても、官民が協力して、物流全般にわたる段ボール箱サイズの見直し、標準化に取り組んでいるところです。

戦略的ロジスティクスの構築に向け、梱包・パッケージにも戦略的に取り組む

——梱包・パッケージの標準化は、大企業が主導したり、業界単位で進めるものなのでしょうか。中小規模事業者が独自に取り組もうとする場合、どうすればよいのでしょうか。

 

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矢野先生:
大企業においても、すでにある生産ラインに縛られていたり、営業部門の影響力が強かったりすることが多く、ロジスティクスに適した商品設計・外装設計に変更することが難しいケースが多くあります。梱包・パッケージの標準化は、小回りが利く中小企業の方が取り組みやすいのかもしれません。

むしろ中小企業に問われているのは、「物流を考えた梱包・パッケージを実現しているか」という問題意識を持っているのかどうかです。冒頭でお話ししたミカン箱が良い例ですが、最初に採用した仕様の梱包・パッケージ資材をそのまま使い続けているだけという中小規模事業者が多いのが、現実ではないでしょうか。

味水先生:
先ほどお話ししたような、梱包・パッケージの見直しによって物流コストを下げた成功事例は、情報を収集しようと思えば簡単に見付けることができます。そうした事例から学んだり、あるいは、競合他社であっても効率的な物流を実現しているのであれば、その会社のやり方に学んでもいいのではないでしょうか。

物流は「協調」領域の活動であり、コストを下げるという共通の目標に向かって協力できる企業とは協調して取り組むことが有効です。そのうえで、商品の性能・品質などで「競争」をしていけばよいのではないでしょうか。

——経営者は、梱包・パッケージの改善に対し、どのような意識を持って取り組めばよいのでしょうか。

矢野先生:
中小規模の事業会社の場合、商品輸送にかかる運賃は気にしても、梱包・パッケージの見直し・標準化に取り組んでいるところはあまり多くはありません。逆に言えば、梱包・パッケージの見直し・標準化に取り組むことで、これまでは気付かなかった意外な効果が得られる可能性があるということであり、他社がやってこなかった物流コストの削減を先駆けて実現できる可能性があるということです。

商品をどのような外装・形状で載せて運んでいくのかを決めるのが「梱包・パッケージ」という工程です。その梱包・パッケージが、ロジスティクスに適した外装・形状になっていなければ、物流のその後の工程においてさまざまなムダやロスが生まれるでしょう。つまり、物流会社が提供する物流網を、能力を最大限に生かした戦略的なロジスティクスに高めるのか、ただ商品を運ぶための輸送網にしてしまうのかは、「梱包・パッケージ」が決めてしまうと言っても過言ではないのです。

戦略的なロジスティクスを実現しようとするならば、梱包・パッケージにも戦略的に取り組んでいただきたいと思います。梱包・パッケージの見直し・標準化は、積載効率を高め、物流コストの削減という結果を出しやすい改善の取り組みです。特に、梱包・パッケージの標準化は、自動倉庫などDX化が進むこれから物流に対応するための前提となるものです。

ぜひ、経営者の方には、リーダーシップを発揮して、梱包・パッケージの改善に取り組んでいただきたいと思います。

発見POINT

  • 梱包・パッケージの標準化は積載率等の向上につながる

    現状、商品ごとのさまざまなサイズ・形状の段ボール箱が使われ、物流の各工程での効率を下げています。それを、「物流も考慮した梱包・パッケージ」に転換することで、パレット・トラックへの積載率向上はもちろん、荷役作業や保管の効率も上がり、物流コスト低減につながります。問題意識を持って取り組めば、結果を出しやすい改善ポイントです。

  • 戦略的ロジスティクスの入り口は「梱包・パッケージ」

    事業会社としてサプライチェーン全体の機械化・デジタル化への対応を考えるとき、梱包・パッケージを標準化しておくことが大前提となります。戦略的ロジスティクスを構築しようとするならば、その第一歩は、戦略的に梱包・パッケージを見直すことです。

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