※取材協力:平良竜太さん(ヤマト運輸株式会社グローバルSCM事業本部・国際統括)
※掲載記事の内容は取材当時のものです。
物流の6大機能の包装にカテゴライズされる「梱包」は、輸送の効率化や製品の品質保持のために欠かせない物流プロセス。近年は、梱包を今一度見直し、「品質を落とさずにコストダウンの実現を目指す」企業が増えてきており、注目が集まっています。
そこで本記事では、梱包の見直しによって「品質と安全性を確保したまま、コストダウンをしたい」という企業の理想を実現するために、どのようなことが重要になるのかを、近年のトレンドとともに考察していきます。
最適な梱包は製品・環境・ニーズによって変わる
そもそも梱包は、物流の6大機能でいう包装のプロセスに当たるもので、大きく「商業包装」と「工業包装」に分けられています。
商業包装は、商品をアピールすることを目的に商品個々へ施される包装のこと。チョコレートのパッケージやポテトチップスの袋なども商業包装に相当します。一方、工業包装は、モノの運搬や破損防止を目的とした包装のことで、段ボールや木枠などを使って製品を梱包したり、個装された貨物をパレットに積み付けたりして、製品の運びやすさや品質の保持を実現しています。物流プロセスにおいては、“包装・梱包=工業包装”と認識されることが一般的です。
また、代表的な工業包装の梱包の種類には、「ダンボール梱包」「パレット梱包」「木箱梱包」といったものがあり、それぞれ次のような特徴があります。
■強化段ボール梱包
木材の代わりに2層3層の強化段ボールを用いるケース梱包。強度や大きさの自由度が高く、軽量で扱いやすいため、あらゆる製品への梱包で汎用的に利用されています。開梱作業が簡易で、リサイクル・リユースが可能なため、地球環境やエンドユーザーへの配慮という点でも優位性を持っています。
■パレット梱包
パレットに製品を載せ、ストレッチフィルムや結束バンドで固定する梱包方法。軽量かつ短時間での作業が可能なため、リードタイムが短い航空輸送などに適しています。またユニット搭載することで大量輸送や格納効率を上げることができるという特徴もあります。
■木箱梱包(ケース梱包、クレート梱包)
木材を使った梱包で、重量のある大型製品にも対応可能。製品を合板の木箱で密閉梱包するケース梱包、板の隙間から製品が見える木枠で梱包するクレート梱包などバリエーションも豊富で、防湿、防錆などを加工してあげることで長期間の海上輸送にも耐えることができます。
これら以外にも、梱包のバリエーションはたくさんあり、それぞれに異なる特徴があり、「どの梱包が最適なのか」は、梱包する製品や輸出方法・環境、届け先、目的、考え方などによって変わっていきます。
今、多くの企業が梱包を見直し始めている理由
梱包の見直し(仕様の変更)を行っている企業が増えている背景
企業が梱包を見直し始めている理由の一つとして挙げられるのが、物流コストの圧縮です。
梱包は頻繁に手を入れるような工程ではないため、企業によっては、最初に製品を運んだときに採用した仕様の梱包を継続しているというケースも少なくありません。しかし、それがその製品にとって最適な梱包ではないということも多々あります。
梱包の仕様は、時代によって変化していくものでもあります。つまり、改めて梱包仕様の見直しを行うことで、コストの削減や適正化という成果を出せる可能性は大いにあると言えるのです。
また、物流のDX化による自動倉庫の増加を受けて、企業がそれらに対応するパッケージを用意する必要性に駆られていることも梱包の見直しが活発化している要因です。DXに対応できれば、企業は人件費削減や作業効率向上など、多くのメリットを得ることができます。つまり、コスト削減や業務の効率化を目指す企業にとって自分たちの生産システムに合わせて梱包を変えていくことは必然的なことなのです。
企業が抱えている課題
梱包の見直しを行う企業が抱える課題には、「コストの削減や最適化を求められている」といったものから、「たくさんの製品を一度に効率的に運びたいけど、どういう規格で運べばよいのかわからない」、「木箱梱包で海外出荷をする際に、現地の高い要求をクリアできる品質を担保できない」といったものなど、コストや品質面の課題が多く見られます。
特に木箱梱包の海外出荷の場合は、ここ5〜6年くらいで日本では問題ない状態であっても、現地ではクレームの対象となってしまったり、製品を受け取ってもらえなかったりといったケースが増えてきており、企業側はその対応に頭を悩ませています。
また、海外出荷の場合は、SDGsの観点などから資材やその処理に対して環境配慮を求める傾向が強くなっているので、それらの要件を満たすようなリターナブル資材を使用した梱包に関する相談も増えています。
梱包の見直しはコスト削減やビジネストレンドへの対応につながるもの
梱包の見直しが企業に与えるメリット
梱包の見直しで企業が得られる、もっともわかりやすいメリットはコストの削減です。
中でもユニット化、ダウンサイズという仕様変更は、輸送コストの削減がもっとも期待できるものです。段ボールの箱を少し大きくしたり、小さくしたりといった仕様変更を行うだけで、一度に運べる量や、そこにかかるコストは大きく変わっていきます。
例えば、一度に100ユニット分を輸送する際に、梱包仕様の変更でこれまで6個しか積めなかった製品を8個積めるようになった場合、従来の個数よりも200個も多く製品をエンドユーザーへ運べるようになり、輸送の頻度や量が増えれば増えるほど、その差は大きくなっていきます。
このことからもわかるように、企業にとって梱包仕様の見直しによるコスト改善の効果は、かなり価値の高いものであることは間違いないでしょう。
また、現地の廃材の処理にかかるコストを下げられる点も注目したいメリットの一つです。例えば、木箱梱包を使っている場合、機械を載せる台の部分は木のままで、その周りの梱包を段ボールにすれば、段ボール部分をゴミとして処理することができ、木材と比べて廃材を少なくすることが可能になります。
廃材の処理にかかるコストを下げられるということは、環境への配慮につながっているということでもあります。
とある大手物流会社では、梱包仕様変更の提案をする際に、コストダウンやお客様のニーズを汲み取った上で、①スモールパッケージ化、②ユニット化による積載効率の向上、③リターナブルな資材、という3つを意識した梱包仕様が提案されています。
その中の「③リターナブルな梱包仕様」は、現地の廃材の処理を簡易にできるものに変えてゴミの産出量を少なくするというものですが、これは同時にSDGsを意識した梱包を採用することでもあります。
梱包仕様の変更で環境配慮へのアクションを起こせれば、世界が目指す循環型社会の実現に貢献する企業としてのアピールにもつながるため、環境配慮への対応というメリットは、企業にとって価値の高いものと言えるでしょう。
また、コストが上がってしまう可能性があるものの、梱包が最適化されることで破損の割合を下げられる点も、特筆すべきメリットの一つです。
海外出荷の場合は、長時間・長距離の輸送を伴うため、国内出荷の場合よりも強度の高い梱包をしていますが、それでも破損が生じてしまうことがあります。現地の荷扱いが劣悪な国や、打痕があるだけでもNGとなってしまうケースもあるため、品質の担保は重要視したいポイントと言えます。
企業は梱包をどのくらい重要視すべきか
企業にとって梱包は「しないで済むのであれば、したくないもの」です。梱包はエンドユーザーに届いた時点で、その必要性がなくなってしまうもの。極論を言えば、発点から着点まで製品が壊れなければ、特別しっかりとした梱包である必要はないため、そこに極力費用をかけたくないというのが正直な想いでしょう。
一方で、もし梱包せずに輸送したときに、製品が壊れてしまい、その後の物流やビジネスの流れが止まってしまう、エンドユーザーの信頼を失ってしまうといったリスクは絶対に避けたいのも企業の本音です。企業にとってはコストも安全性も同等に重要なこと。梱包には「コストと安全性のいいとこ取り」を求めるのが企業のベストバランスと言えるでしょう。
企業の担当者が梱包を見直す際に重要視すべきポイント
梱包を見直す際の注目ポイント
自社で梱包の見直しを行う場合は、まず現状の「梱包の仕方」と「使用している資材の性質」を、エラーがあるもの、改善の余地があるものとして、次のような視点でチェックすると、見えてくるものがあるはずです。
また、月単位で「出荷で生じたダメージやクレームの件数」と「ダメージの原因」をリスト化して、情報を可視化しておくことも有効です。これらをチェックしておくだけで、その梱包仕様が、製品の梱包に適しているのか否かが明瞭になります。
物流会社は、どんなことをしてくれるのか
梱包の見直しは、プロフェッショナルである物流会社に依頼するのもベターな選択と言えます。物流会社に相談した場合の、仕様決定までの流れは、
① ヒアリング(ニーズ・希望)
② 包装・梱包の内部検討
③ ヒアリング(詳細、プライオリティ)
④ 提案(1回目)
⑤ ヒアリング(複数部署へ複数回)
⑥ 包装・梱包の内部検討
⑦ 輸送トライアル※
⑧ 最終提案(双方合意で仕様決定)
といったもの。輸送トライアルは、実施していない物流会社もありますが、実際の製品、もしくは重さや形が似通ったダミーの製品で、ショックセンサーや温度センサーなどで中身の製品がどのようなダメージを受けているのかという点まで確認してくれるため、より安心安全な提案を受けられる可能性が高まります。
委託先を選ぶ際のポイント
委託先は、ニーズをきちんと聞いてくれる、意図を汲み取った提案をしてくれるといった点を基準にする的です。商談先の回答や提案が、ご自身の求める答えとニアリーイコールとなるようであれば、そのまま話を続けていくとよいでしょう。
さらに、その前提があって、さらにしっかりとした実績がある、オールインワンの知識を有していて海外輸送の手配もできて、現地での輸送手配もできるワンストップ対応をしてくれるような会社だと、話もスムーズで安心です。
梱包以外の部分までワンストップで提供してくれることは、企業にとってメリットとなります。例えば、大手の物流会社であれば、預かった荷物を在庫管理し、リアルタイムに依頼主と在庫情報を共有するWMS(倉庫管理システム)というシステムがあるため、企業はパソコンから指示を入れるだけで手軽に出荷対応をすることができるようになります。梱包だけではなく、関連する業務でも業務の効率化やコストダウンのきっかけをつくれるということは、想定以上の効果が期待できるかもしれないということ。そういった意味でも委託先選びの際に「梱包業務+α」の視点は、持っておくべきでしょう。
また、梱包仕様は製品ごとのオリジナルなものになるので、である梱包設計のスペシャリスト工業包装技能士がいる会社を選ぶということも重要です。
梱包は、大きく設計と組み立てに分けられ、建築士と大工の関係のように、それぞれ担当が分かれることが多く、工業包装技能士は、お客さまから営業の人間がヒアリングした情報をベースに、最適な梱包資材を選定したり、緩衝材の緩衝効果を検討したりしながら、梱包仕様を設計していく役割を担います。
工業包装技能士は、大手の物流会社などにはほぼ在籍していますが、そうではないサービス提供会社の場合は、在籍していないこともあります。梱包は、特殊な技能や経験が必要な業務であるため、職人が同じ職場、同じ仕様で業務を続けているというケースも少なくありません。つまり、工業包装技能士がいなくても、従来から使用している仕様があれば、同じクオリティのものがつくれてしまうのです。
ただし、このような環境だと、どうしても職人の経験頼みになってしまうので、業務が属人化してしまったり、従来のやり方をなかなか変えられず柔軟にお客様のニーズに応えれなかったりといった課題が出てきてしまうのも事実です。
そのような理由もあり、梱包で理想を具現化したいのであれば、やはり工業包装技能士がいる企業に相談するのがベストと言えるでしょう。
コストと安全性を両立した梱包を実現するために企業がすべきこと
まずは、コストを含めて現状の梱包を俯瞰で見直してみることが重要です。
梱包は頻繁に改善を施すようなものではないため、実は、問題ないと思っていた梱包が、必要以上に梱包してしまっている過剰梱包になってしまっているというケースは意外に多くあります。これは、最初に製品を梱包したときに、不安からガチガチに梱包してしまった仕様を継続していることが原因と言えますが、前述したようにそれが最適な梱包であるとは限らず、むしろ改善の余地がある場合の方が多いのです。
自社で過剰梱包になっているかどうかの確認が難しいという場合は、物流会社のプロに相談してみるのも良いでしょう。
最適な梱包は製品によって異なり、トータルコストを下げたものの方が、実は適した梱包だったというケースもあります。重要になるのは、製品ごとの最適な梱包方法を見つけ出すこと。そのためにも、改めて自社の梱包を見直す機会を設けて、本当に現状の梱包に改善の余地がないのかを見直してみてください。