※掲載記事の内容は取材当時のものです。
「ECモールに出店されている多くの事業者様が抱えている経営課題は、コスト削減と売上向上です」。そう話すのは、ヤマト運輸株式会社の成本義和さんです。成本さんによれば、その課題解決の糸口となるのが、物流業務の改善とのこと。200社以上の事業者様と向き合ってきた成本さんに、マーケティング的観点から物流業務の改善がもたらす課題解決のヒントをうかがいました。
物流業務の改善で大量出荷に対応できない負のスパイラルから脱却
SEOにも強く、集客力も高いECモール。とくにセールやキャンペーンなどは、出店している事業者様にとっても大きなビジネスチャンスとなっています。しかし、成本さんは、こうした繁忙期の波にうまく乗れない事業者様は意外に多いと言います。
「各モールで大きなセールを定期的に実施していますが、大量注文に対応できない事業者様がいらっしゃるのは事実です。出荷したくないわけではなく、体制的にも出荷できないのです。本来は、売上アップのチャンスですが、やむを得ず注文をおさえてしまうわけです」(成本さん)
とくに中小規模の事業者様に、その傾向はよく見られるそうです。セールの波に乗れないことは、そのときの売上に影響するだけでなく、構造的にマイナスの連鎖を生み出すと、成本さんは指摘します。
「ECモールのセールによる急な注文に対応できる出荷体制がないと発送が遅れてしまい、お客様の不満につながる可能性があります。端的には、ECモールのレビューでマイナス評価がついてしまうわけです。お客様の評価が下がれば、比例してお店自体の評価が下がってしまう恐れがあります。そうすると検索エンジン上もマイナスに働く。それが根本的に改善されないまま、また次のセールやキャンペーンが始まることで、悪循環に陥ってしまうのです」
しかし、無理に対応しようとすれば、また別の問題が発生します。
「構造的に改善されていない中、無理に出荷を続ければ、ミスにつながったり、約束の時間に届けられなかったり、と結果的にマイナス評価を増やすことにつながりかねません。レビューが悪化すると、ECモール以上に、出店している事業者様の責任になってしまうので、事業者様にとって良くない状況になる可能性もあります」
こうした負のスパイラルから脱却するためには、マーケティングの観点からコストと売上のバランスを考える必要があると成本さんは言います。その解決策の一つが、物流業務の改善です。
「なるべくコストをおさえ、安定した運用によって売上を上げたいと考える事業者様は、私がお話した中でも多くいらっしゃいました。EC事業においてコストの中でも多くの割合を占めるのは、やはり物流です。コストに見合った物流業務の改善が実現できれば、現場における出荷の負荷を軽減するだけでなく、セールによる波動をうまく吸収して売上の向上につなげることができるわけです」
物流業務の委託で経費削減と季節ごとの繁閑への対応を実現
しかし、中小規模の事業者様を中心に物流業務の現状に目を向けると、やはりマンパワーに依存しがちです。その場合、人件費がネックとなって物流業務の改善が進まないケースも少なくありません。
「扱う荷物の量にもよりますが、物流業務を内製化していると管理者が1人いるだけでは足りなくなることもあります。また、管理者が複数名いるとなれば、販管費や人件費といった固定費が高くついてしまう。ただ、ある程度アウトソースできれば現場を任せる管理者1名と、あとは派遣社員やアルバイトなどピックする役割の人でも対応できる。つまり、単純作業で誰でもできる体制を作ることは、固定費の削減につながるのです。多くの事業者様とお話しした中でも、そういった体制づくりを求める声は多く耳にしました」
そうしたニーズから、現在新たな物流サービスが登場しています。受注から出荷までの作業工程のうち、帳票発行以降を代行する「通過型物流」サービスです。事業者様はその日の出荷分の商品をまとめて物流会社に引渡すだけで、作業が完了します。
「ECモールを含むBtoCのEC事業の場合、お客様の個人情報の取り扱いは避けて通れません。そのリスクヘッジとして信頼のできるパートナーに物流業務を委託したいと話す事業者様は少なくありません。「通過型物流」サービスは、事業者様の物流業務の負荷を軽減するだけでなく、そうしたリスクヘッジにもなるサービスと言えるのではないでしょうか」
また、ECモールのキャンペーンにおける大量出荷はもちろん、季節ごとの繁閑への対応がしやすくなるというメリットもあります。
「事業者様によって扱う商品の出荷に波があります。例えば、バレンタインの時期でしたら、チョコレートやお菓子、バレンタインギフトを扱っている事業者様はかなり忙しくなりますが、それ以外の時期は落ち着いてしまうことも。「通過型物流」サービスを活用すれば、このような波動に合わせて人の配置や採用を考えることは減るでしょう。実際に、事業者様とお話しをする中で、『人的リソースを考えるとメリットがある』とおっしゃる経営者の方も多かったですね」
とくにECモールは、季節のイベントにあわせて施策を展開する場所でもあります。そのタイミングにあわせて体制を整える必要がなくなれば、運用上の負荷はかなり軽減されます。 「例に挙げたバレンタイン以外にも、お中元、お歳暮、母の日、父の日、クリスマスなど、それぞれの波動に合わせて物流業務の委託ができれば、事業者様も使いやすいのではないでしょうか。固定費の削減につながるうえに、売上につながるビジネスチャンスをしっかりと活用できるはずです」
物流コストの変動費化で経費を抑えて売上を最大化する
成本さんは物流のアウトソースは、固定費の削減だけでなく、物流コスト自体を変動費化できることが一番の価値だと言います。
「通過型物流」サービスは、時期による波動を吸収できる物流サービスです。つまり繁閑にあわせて物流コストを変動費化できるということです。必要な分だけの物流コストをかけて売上を最大化する。冒頭にお話した悪循環からの脱却にもつながります」
「物流の品質が上がれば、物流業務の負荷軽減という目先の課題は解決できます。しかし、それだけではありません。モールや自社サイトの評価が上がって、結果的にお客様からのクリック率、コンバージョン率の改善にもつながれば、売上にも貢献します。物流だけにとどまらず、マーケティング視点で売れる仕組みづくりを考えることが大切だと思っています」
成本さんは、「通過型物流」サービスをECの経営課題を解決するサービスだと考えているとのこと。